【ドパミンD2受容体作動薬の違い】 アリピプラゾール と ブレクスピプラゾールをわかりやすく解説!

薬の化学構造と特徴

はじめに

アリピプラゾール (商品名:エビリファイ)はドパミンD₂受容体に部分作動(partial agonist)として作用する第2世代抗精神病薬で、統合失調症、双極性障害、うつ病の補助療法などで広く使われています。部分作動とは「過剰なときは抑え、不足しているときは補う」働きで、運動系の副作用(錐体外路症状:EPS)を抑えやすいとされます。

ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)は同系列のセロトニン・ドパミン作動調節薬(SDAM;serotonin-dopamine activity modulators)に属し、アリピプラゾールの設計を受け継ぎつつドパミンD₂受容体の内在性活性をやや低めに、5-HT系(5-HT1A/5-HT2A)受容体への作用は強めに調整した新しい薬剤です。臨床では統合失調症、うつ病治療の補助などで使用されています。

アリピプラゾール と ブレクスピプラゾール の作用比較

作用点とその効果について簡単に表にまとめます。

受容体 アリピプラゾール ブレクスピプラゾール 臨床的意味
D2受容体 強い部分作動薬 弱い部分作動薬 ブレクスピプラゾールはドパミン関連の副作用が少ない
5-HT1A受容体 部分作動薬 強い部分作動薬 抗不安・抗うつ作用がより期待できる
5-HT2A受容体 拮抗作用あり より強い拮抗作用 鎮静や陰性症状の改善に寄与
α1B受容体 中等度拮抗 強い拮抗 鎮静効果・血圧低下リスクあり
H1受容体 弱い親和性 やや強い親和性 ブレクスピプラゾールは体重増加が起こりやすい傾向

アリピプラゾール のファーマコフォア

ファーマコフォアは受容体上で必要な“相互作用のセット”です。アリピプラゾールの主要な要素とその臨床的意味を示します。

アリピプラゾール(エビリファイ®︎)のファーマコフォアを確認してみましょう!

アリピプラゾール、ファーマコフォアの模式図

それぞれの部分構造に役割があります。

、分子全体が長さや柔軟性といった物理的な要素から塩基性や脂溶性などの化学的な要素まで、薬が作用するために重要な構造が満遍なく最適化されています。

表:アリピプラゾールのファーマコフォア

要素 アリピプラゾール ブレクスピプラゾール 受容体への作用における意義
コア骨格 キノリノン誘導体(Quinolinone) キノリノン誘導体(Quinolinone) 部分アゴニスト作用の基盤となる共通構造
芳香環置換基 ジクロロベンゼン ベンゾチオフェン 芳香環の疎水性とπ電子の違いにより、受容体親和性と選択性を調整
(ブレクスピプラゾールの方がより安定)
塩基性部位 ピペラジン環 ピペラジン環 D₂および5-HT₁A受容体とイオン結合
ファーマコフォア要素 芳香族環・塩基性窒素・疎水性部位 芳香族環・塩基性窒素・疎水性部位+極性原子 後者は立体配置が最適化され、部分アゴニストの効率が向上
代表的な受容体への作用 D₂部分アゴニスト、5-HT₁Aアゴニスト、5-HT₂Aアンタゴニスト D₂部分アゴニスト(弱い)、5-HT₁Aアゴニスト(強い)、5-HT₂Aアンタゴニスト(強い) ブレクスピプラゾールでは抗不安・抗うつ作用をより発揮しやすい

アリピプラゾール の構造活性相関(SAR)

薬効は「分子の形」と「置換基」によって決まることが多く、両薬のわずかな構造差が受容体との結合様式と機能(部分作動性の度合い、セロトニン系への親和性)を変えます。

ここで、アリピプラゾール(エビリファイ®︎)とブレクスピプラゾール(レキサルティ®︎)の構造活性相関を見てみましょう!

アリピプラゾールとブレクスピプラゾールの構造活性相関を表す模式図

ブレクスピプラゾールでは側鎖末端の芳香環にチオフェンが導入されています。

ブレクスピプラゾールの部分構造がセロトニン(5-HT)に類似していることを示す模式図

ブレクスピプラゾールのベンゾチオフェン部分を見ると、5-HTであるセロトニンの構造に似ていますね!

5-HT1Aへの親和性が増すのも理解しやすいでしょう。

表:主要な構造的要素と薬理的影響

構造要素 アリピプラゾール ブレクスピプラゾール 薬理学的影響
コア骨格 キノリノン キノリノン 部分アゴニスト活性を与える基本構造
芳香環構造 ジクロロベンゼン ベンゾチオフェン 芳香環がドパミンD2/5-HT2A受容体への親和性・選択性・持続性に寄与
側鎖構造 ブチル鎖+ピペラジン環+芳香環 ブチル鎖+ピペラジン環+芳香環 チオフェン導入で5-HT₁A親和性が増加し、抗不安作用が強調
D₂受容体親和性(Ki) 約0.34 nM 約0.58 nM ブレクスピプラゾールはより穏やかなドパミンD2制御を示す
5-HT₁A受容体親和性(Ki) 約5.6 nM 約0.12 nM 抗不安・抗うつ作用
5-HT₂A受容体親和性(Ki) 約3.4 nM 約0.47 nM 遮断で幻覚・不安の抑制作用
部分アゴニスト効率 高め(強いドパミンD2作動) 中等度(より安定したドパミンD2作動) 副作用プロファイルの違いにつながる

化学構造の臨床への影響

ここでは、上でまとめたSARとファーマコフォアが、実臨床でどのような影響を生むかを説明します。主要な点は以下です。

1. ドパミンD₂部分作動性と副作用バランス

アリピプラゾールは高親和性のドパミンD₂受容体部分作動薬で、陽性症状改善とEPSの軽減という臨床的利点を示します。原著レビューでも部分作動性の特徴が強調されています。 

2. ブレクスピプラゾールの受容体プロファイルと忍容性

ブレクスピプラゾールはドパミンD₂の内在性活性がやや低く、5-HT1A作動・5-HT2A拮抗が相対的に強いと報告されます。これがアカシジアなどの副作用を抑え、抗不安・抗うつの補助効果を示唆する機序と考えられます。 

3. PKの違いと用量設計

アリピプラゾールの平均半減期は約75時間(CYP2D6欠損者では更に長い)で、主にCYP2D6/CYP3A4で代謝されます。ブレクスピプラゾールも長い作用時間を持ち、代謝・相互作用リスクは薬剤ごとに確認が必要です。臨床ではCYP阻害薬併用や代謝遺伝子多型に注意して用量調整を行います。 

医薬品化学の臨床への応用(PK/PD・製剤学)

PK/PDと処方の実務的なポイント

薬物動態と薬力学(PK/PD)と製剤学の観点で簡単にまとめます。

半減期と投与間隔

アリピプラゾールの平均半減期は約75時間、CYP2D6の活性が低い人(PM;poor metabolizer)では約146時間と報告されているため、漸増・漸減に時間がかかり、作用の立ち上がりや消失が遅くなります。 

代謝と併用薬

アリピプラゾール、ブレクスピプラゾールともにCYP酵素(主にCYP2D6・CYP3A4)で代謝され、強い阻害薬や誘導薬の併用は血中濃度を大きく変えるため薬物相互作用の確認が重要です。

製剤設計

アリピプラゾールは経口製剤に加え、「長時間作用型注射(LAI)」が臨床で用いられ、服薬遵守が難しい患者の維持療法に有用です。ブレクスピプラゾールも経口を中心に作用持続性が高い特徴があります。 

アリピプラゾール と ブレクスピプラゾールの臨床要点

わかりやすく以下に表で簡潔にまとめます。

表:臨床で押さえるべき比較ポイント

項目アリピプラゾールブレクスピプラゾール要点
D₂ 内在性活性比較的高め相対的に低め内在性活性の差が刺激性副作用の差に影響
5-HT1A / 5-HT2A作動/拮抗あり作用がより強めセロトニン系の差が抗不安・抗うつ補助に影響
半減期約75時間約91時間投与設計・切替に影響
副作用傾向アカシジア等が比較的報告されやすいアカシジアはやや少ない報告忍容性の差が使い分けの材料

まとめ

アリピプラゾールは高親和性のドパミンD₂受容体部分作動薬で、陽性症状改善と比較的低いEPSリスクを両立しやすい薬です。代謝はCYP2D6/CYP3A4が関与し、半減期が長い点に留意する必要があります。 

ブレクスピプラゾールはアリピプラゾールに類似で、ドパミンD₂受容体の内在的な活性をやや低めに、5-HT系の作用を強めた設計で、忍容性(特にアカシジア等の刺激性の副作用)改善の可能性が報告されています。 

構造・特性アリピプラゾールの臨床的特徴ブレクスピプラゾールの臨床的特徴構造からの帰結
ドパミン部分アゴニスト特性活性が強めで、アカシジアなどの錐体外路症状が出やすいより弱く、鎮静性があり副作用が少ないD₂受容体親和性と作動効率の差に由来
セロトニン作用5-HT₁A作用は中等度5-HT₁A作用が強く、抗不安・抗うつ的効果が明瞭チオフェン側鎖による親和性上昇
鎮静性比較的少ないやや強い(夜間服用に向く)5-HT₂AおよびH₁受容体への親和性増加
代謝経路CYP2D6およびCYP3A4で代謝同様だが代謝速度がやや遅い極性構造により代謝安定性が高い
半減期約75時間約91時間より極性の高い構造が血中持続時間を延長
副作用傾向アカシジア・不眠・軽度賦活鎮静・体重増加傾向(軽度)受容体選択性と作用強度の違いによる
臨床用途統合失調症、双極性障害、うつ病補助療法統合失調症、うつ病補助、易刺激性の抑制構造修飾により作用の安定性と忍容性を改善

臨床判断は「有効性」だけでなく「副作用プロファイル」「併用薬や代謝多型」「患者の生活環境」を総合して行うべきです。系統的レビューでは両薬に大きな有効性差は認められない一方、忍容性の差が薬の選択に影響することが示唆されています。 

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参考文献

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2. Lawler CP, et al. Interactions of the novel antipsychotic aripiprazole (OPC-14597) with dopamine and serotonin receptor subtypes. Neuropsychopharmacology. 1999.

3. Stahl SM. Mechanism of action of brexpiprazole: comparison with aripiprazole.CNS Spectr. 2016.

4. Maeda K, et al. Pharmacology of brexpiprazole. (Review articles & clinical pharmacology papers). 2014–2016.

5. FDA ABILIFY (aripiprazole) label — pharmacokinetics & metabolism.

6. Clinical pharmacology / StatPearls: aripiprazole overview. (NCBI Bookshelf)

7. Martínez-Vélez NA, et al. Aripiprazole versus brexpiprazole for people with schizophrenia (systematic review). 2023.

8. エビリファイ®︎医薬品インタビューフォーム

9. レキサルティ®︎医薬品インタビューフォーム

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