【ベルソムラ®︎とデエビゴ®︎】オレキシン受容体拮抗薬の化学構造から違いを比較!

薬の化学構造と特徴

オレキシン受容体拮抗薬( ベルソムラ®︎ や デエビゴ®︎ )の化学構造や相互作用の違い,OX受容体との親和性、睡眠/覚醒リズムやOX受容体とそれぞれどのような相互作用で制御されているのか解説します。

オレキシンと受容体

オレキシンは神経ペプチドの一つで睡眠/覚醒リズムに関与する神経伝達物質です。オレキシンは視床下部のニューロンに発現し、覚醒に関与する神経核を活性化することで覚醒状態を維持しています。摂食行動を促すことにも関与するとされています。

オレキシンにはオレキシンAとBの二つのサブタイプ、オレキシン受容体にもオレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)の二つのサブタイプがあり、いずれもGqタンパク質共役型受容体です。

オレキシンAもBも、それぞれOX1RとOX2Rに作用するものの親和性が異なります。

オレキシンAの受容体親和性はOX1R≒OX2R、オレキシンBはOX2R≧10×OX1Rであり(Ryoji Suno, et al., Structure, 2017)、また、OX1Rはレム睡眠を抑制、OX2Rはノンレム睡眠を抑制する(レム睡眠にもいくらか影響する)ことで覚醒を維持しています(Willie JT, et al., Neuron, 2003)。

オレキシン受容体拮抗薬

オレキシンの受容体への結合を阻害することで、覚醒の抑制による自然な眠気が誘発されます。
オレキシン受容体は、OX1RとOX2Rの両方を阻害した方が片方だけを阻害するより効果的に睡眠を誘発でき、その中でもOX2Rの方がより睡眠/覚醒に重要なようです。(参考:デエビゴ®︎IF)

OX1Rはレム睡眠を抑制、OX2Rはノンレム睡眠を主に抑制(レム睡眠もある程度抑制)して覚醒維持にはたらくため、OX1Rを阻害するとレム睡眠の抑制を抑制することになり(つまり結果的にレム睡眠が増え)、夢を見やすく、悪夢の副作用に繋がります。
レンボレキサント(デエビゴ®︎)がレム睡眠への影響と悪夢の頻度が少ないと言われているのは、OX2Rに選択性が高いことによると考えられます。

また、過眠症の一つであるナルコレプシーは、オレキシンを産生する神経細胞の障害によりオレキシンが欠乏した状態で、日中でも突然強烈な眠気に襲われる睡眠発作を引き起こしたり、過度な感情の高ぶりによる突然の筋力低下(情動脱力発作:カタプレキシー)を併発することがあります。

そのため、オレキシン受容体拮抗薬は、ナルコレプシーやカタプレキシーの患者では悪化させる恐れがあり慎重投与となっています。

スボレキサント(ベルソムラ®︎)

スボレキサント(ベルソムラ®︎)の構造式

スボレキサント(ベルソムラ®︎)は、いくらかの疎水性相互作用、π-π相互作用、水素結合により受容体と相互作用していて、受容体との距離も遠いのか、そこまで強力な相互作用は形成されないようです。

阻害活性はOX2RよりOX1Rの方が高く、悪夢の副作用がレンボレキサント(デエビゴ®︎)に比べ、わずかに起こりやすいと言われています。

レンボレキサント( デエビゴ®︎ )

レンボレキサント(デエビゴ®︎)の構造式

レンボレキサント(デエビゴ®︎)は、スボレキサントをもとに改良された薬剤ではないため基礎構造が異なります。

相互作用はスボレキサントに似て疎水性相互作用、π-π相互作用、水素結合で、自由エネルギーから見てOX2Rへの親和性が高く、これがOX2Rへの選択性に寄与しているようです。

受容体と結合・解離しやすいため、効果発現まで早く、かつ夜間睡眠維持、翌朝への持ち越しを小さくすることが期待できます。(添付文書上の半減期は約50hと長いものの、α相での半減期はベルソムラ®︎より短く4〜6hほど)

ベルソムラ®︎ と デエビゴ®︎ の強さ比較

悪夢の副作用に関連するであろうOX1Rへの阻害活性は、
スボレキサント(ベルソムラ®︎)>レンボレキサント(デエビゴ®︎)
睡眠/覚醒に主に寄与するOX2Rへの阻害活性は、
レンボレキサント>スボレキサント

デエビゴ®︎の方が悪夢などの副作用リスクがわずかに小さく、OX2Rへの作用も安定し自然な睡眠維持には効果的と言えますが、OX2Rはエネルギー消費を促進するため(Miyo Kakizaki, et al., iScience, 2019)、抑制することでエネルギー消費がされにくくなり、これがデエビゴ®︎の体重増加の副作用(1.6%)の要因になっているのかもしれません。

睡眠に寄与するOX2Rへの阻害活性から臨床量(通常用量)で強さを比較すると、
レンボレキサント(デエビゴ®︎)(5mg)>スボレキサント(ベルソムラ®︎)(20mg)となります。

化学構造的に見ても、レンボレキサントの方が疎水性相互作用やπ-π相互作用の影響が大きく、受容体(OX2R)とフィットしやすい構造になっているようです。

ベルソムラ®︎ と デエビゴ®︎ の薬物相互作用

また、薬物相互作用では、ベルソムラ®︎はCYP3Aを強く阻害する薬剤と併用禁忌になっています。

CYP3Aの基質はP-gp(P-糖タンパク質)の基質とオーバーラップしやすいことを利用して、P-gpの基質的特徴からすると、分配係数はどちらも3.7で同等。

化学構造的には、デエビゴ®︎もCYPによる相互作用をそれなりに強く受けやすいと思いますが…
(CYP3Aの化学構造的な基質特異性はまだ詳しく調べてないため過去記事を参照↓)

Cf. P-糖タンパク質(P-gp)の相互作用と薬の構造

いずれにしても、どちらの薬剤もCYP3Aの基質になりやすい構造をしているため、併用薬により減量が必要な場合があることも押さえておかなければなりません。

併せて読みたい記事

参考:
・Ryoji Suno, et al. Structure, 2018 Jan, 26(1): p7-19.
・Carsten Theodor Beuckmann, et al. Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics August 2017, 362 (2): 287-295.
・ベルソムラ®︎、デエビゴ®︎インタビューフォーム(IF)

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