【メトトレキサートと葉酸】化学構造式から作用機序や代謝を比較!〜ファーマコフォア〜

薬の化学構造と特徴 番外編

メトトレキサート と 葉酸 の化学構造式は非常によく似ています。

立体的な空間配置も含めた受容体との相互作用を考える“ファーマコフォア“で見ても、ジヒドロ葉酸、メトトレキサートと酵素の相互作用の仕方はほぼ同じで、今回はメトトレキサートを化学構造式の観点から、その特徴を解説していきます!

葉酸代謝と拮抗薬

葉酸の役割

葉酸にはC1単位の転移反応の補酵素としての役割があります。

イメージしづらいと思うので第106回薬剤師国家試験 問223の図(厚生労働省HP)を用いると、ここではDNAの合成過程で重要なウラシル→チミンへの変換に葉酸が関与しています。

ウラシル(U)とチミン(T)の構造を見ると、ウラシルに1個のメチル基(-CH3)が加わったのがチミンであることがわかりますね。

つまりこれがC1単位(メチル基)の転移反応です。

葉酸代謝の図
第106回薬剤師国家試験 問223(厚生労働省HP)より引用・改変

後で触れますがジヒドロ葉酸とテトラヒドロ葉酸は図の黄色部分の違いです。

ジヒドロ葉酸からさらに2ヶ所をヒドロ化(水素化)することでテトラヒドロ(計4ヶ所が水素化された)葉酸となります。

葉酸代謝拮抗薬( メトトレキサート )

チミンはDNAを構成する4つの塩基の一つで、この生成を阻害すればDNAの合成を阻害できます。

DNAは最終的にタンパク質を生成するための情報部分であり、細胞増殖など免疫系でも重要で、葉酸の代謝を阻害すればDNA合成も阻害でき細胞増殖も抑えることができます。

メトトレキサートの作用機序の図

メトトレキサート(MTX)は代表的な葉酸代謝拮抗薬でジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸に変換する「ジヒドロ葉酸還元酵素」を阻害します。

テトラヒドロ葉酸の生成を阻害することで5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸によるC1単位の転移反応が起こらず、DNAの合成を阻害できます。

メトトレキサート (MTX)の化学構造

メトトレキサート と 葉酸 の構造類似性

メトトレキサートと葉酸の構造式

MTXと葉酸の構造は見ての通り非常によく似ています(ほぼ全く同じですね)。

メトトレキサートのファーマコフォアに関して、ジヒドロ葉酸とMTXの、酵素との相互作用の仕方もほぼ同じようです(こちらはジヒドロ葉酸との比較をしなければならないので厳密には異なります)。

メトトレキサート の吸収過程に影響?!

MTXの作用機序は『ジヒドロ葉酸還元酵素の阻害』なので、作用点においてはジヒドロ葉酸の化学構造と比較する必要がありますが、これだけ化学構造が似ているとやはり問題になることもあります。

それが「薬剤の吸収」です。

実はMTXも葉酸も、葉酸トランスポーターと呼ばれる輸送系によって消化管から吸収される(1)と考えられています。

これだけ化学構造が似ていれば競合し吸収が悪くなるとしても納得ですね。

特に関節リウマチで使用されるMTXの内服薬(リウマトレックス®︎)は間欠投与を基本とした飲み方に特徴のある薬剤で、MTXの副作用防止のために葉酸を内服することもあります。「メトトレキサート最終投与24〜48時間後に葉酸を5mg/週以内で投与する(2)」がセオリーとなっているのも、こうした吸収過程で競合しやすいのが当然なほど酷似した化学構造同士だから、と考えることもできます。

MTXと葉酸の投与間隔には明確な結論が出ていないものの、MTXの半減期の分布相以内(Tmax≒1〜2h、T1/2≒2.3h)に投与した場合に明らかに治療効果が減弱する(2)とされていますが、吸収過程での競合は十分に考えられます。

メトトレキサート の部分構造

メトトレキサートの構造式の図

葉酸含めMTXを構成する3つの主要な部分構造はプテリジン(プテリン骨格)p-アミノ安息香酸(PABA)、グルタミン酸(Glu)です。

グルタミン酸は酸性アミノ酸、カルボキシ基は生理的pHでイオンとなるため水溶性が高く、腎近位尿細管での排泄過程に有機アニオントランスポーター(OAT)が関与するのも構造式から理解することができます。

また、先述した吸収過程に葉酸トランスポーターの関与があり、p–アミノ安息香酸とグルタミン酸部分が基質認識に寄与している(1)と考えられています。

※薬剤排出機構の一つ『P–gp』の相互作用と化学構造についてはこちら

メトトレキサート のファーマコフォア

ジヒドロ葉酸還元酵素との相互作用ですが、ジヒドロ葉酸との”結合親和性”を直接比較した資料はなかったのでそちらは割愛します。

メトトレキサートのファーマコフォアの図

水素結合が主ですが、これはジヒドロ葉酸でもほぼ同じで分子の方向性などもほとんど違いはないようです。

MTXに耐性の変異ジヒドロ葉酸還元酵素では疎水性相互作用やファンデルワールス相互作用の減弱、そして分子の微妙な回転(〜7°)の影響によって、MTXの親和性が大きく低下すると考えられています。

このため、MTXを囲んでいるアミノ酸残基との疎水性相互作用がMTXの薬効に大きく寄与していると言えます。

まとめ

以上の内容をまとめると以下のようになります↓

・(テトラヒドロ)葉酸はC1単位の転移反応の補酵素
・MTXはジヒドロ葉酸還元酵素を阻害しDNA合成を抑制する
・葉酸とMTXは化学構造が似ているため同じトランスポーターで吸収され競合する
・葉酸もMTXもプテリジン(プテリン骨格)、p–アミノ安息香酸、グルタミン酸の部分構造で構成される
・MTXの排泄過程で有機アニオントランスポーター(OAT)が関与する
・MTXの薬効には疎水性相互作用が大きく寄与している

参考:
(1)井上 勝央、湯浅 博昭 PCFT/SLC46A1による葉酸の吸収機構 Vitamins (Japan), 84(10), 472-479(2010)
(2)関節リウマチにおけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン2011
・Jordan P Volpato et al. Multiple conformers in active site of human dihydrofolate reductase F31R/Q35E double mutant suggest structural basis for methotrexate resistance. J Biol Chem. 2009.
・Ismail M M Othman et al. Novel heterocyclic hybrids of pyrazole targeting dihydrofolate reductase: design, biological evaluation and in silico studies. J Enzyme Inhib Med Chem. 2020 Dec.
・Yahya Hobani et al. A comparative molecular docking study of curcumin and methotrexate to dihydrofolate reductase. Bioinformation. 2017; 13(3): 63–66.

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