【紅麹( モナコリンK )とスタチン系薬剤】薬学で見る紅麹問題〜化学構造式とファーマコフォア〜

薬の化学構造と特徴 番外編

令和6年3月下旬、とある紅麹含有商品が健康被害を発生させていたことが明らかになりました。未だ原因は解明されていませんが、国立医薬品食品衛生研究所が令和6年5月28日に公表した原因物質に関する情報で「 モナコリンK の誘導体」を示唆する化合物が特定されています。

今回、薬剤師が化学・薬学の視点から紅麹問題を見ることで、医薬品だけでなく健康食品・サプリメントに、そもそもどんな問題が潜んでいるのかを意識してもらえたら嬉しいです。

この記事でわかること

モナコリンKがコレステロールを下げるとされる理由
モナコリンKとスタチン系薬剤の類似性と特徴
新たに確認された化合物YやZとモナコリンKの関係
「薬が効く」本質的なメカニズム
化学構造やファーマコフォアの重要性
薬剤師による薬学的観点(化学・薬理・薬物動態)の必要性
紅麹問題に潜むサプリメントの問題点

紅麹の主成分「 モナコリンK 」

紅麹のサプリメントはコレステロールが気になる方のための商品でした。

紅麹に含まれるコレステロール低下を期待する主成分が「モナコリンK」です。

モナコリンK とは?

モナコリンKは別名「ロバスタチン」とも言い、日本でも脂質異常症の治療薬(コレステロール低下薬)として使用される“スタチン系“と呼ばれる成分の仲間です。

スタチン系の中で「ロスバスタチン(クレストール®︎)」という名前の薬は日本でも大変よく使用されていますが、ロバスタチン(モナコリンK)と名前が似ていても全く別物なので誤解しないようにしてください。

ロバスタチンとロスバスタチン

モナコリンKは実際にはスタチン系薬剤のシンバスタチン(リポバス®︎)という成分の構造式によく似ているのですが、これは後ほど解説します。

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スタチン系薬剤は モナコリンK から開発された?!

スタチン系薬剤の一つであるシンバスタチン(リポバス®︎)は、歴史を辿ればモナコリンKであるロバスタチンをもとに開発されました。

日本とアメリカでそれぞれ同時期に研究が行われていましたが、日本人がカビの成分から発見した物質をもとにアメリカでも研究が行われ、先に医薬品として認可されたのがアメリカの「ロバスタチン」です。

日本人が発見した成分なのに医薬品開発でアメリカに先を越されてしまった大変苦い経緯があったのです..

モナコリンK と シンバスタチン の類似性

化学構造式を見ればどれほど似ているのか一目瞭然なので早速見てみましょう!

モナコリンKとシンバスタチンの構造式

どこが違うのかわかりますか?笑

正解はこちらです↓↓

ロバスタチンとシンバスタチンの構造式

たったこれだけなんです..

メチル基1個あるかないかの違いだけでほぼ同じです。

問題は「このメチル基1個が医薬品とサプリメントを分けるだけの違いかどうか」で、ファーマコフォアや構造活性相関も重要ですが、薬物動態や用量反応性といった薬理学的な視点も非常に重要です。

HMG–CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)

改めてスタチン系薬剤の構造式における特徴と作用機序を確認しましょう。

スタチン系の作用機序

HMG–CoA還元酵素阻害薬は、コレステロール合成の律速酵素である“HMG–CoA還元酵素“を阻害することで、肝臓でのコレステロール合成を抑制しLDL–コレステロールを下げます。

HMG–CoAのCoA部分に隣接した電子密度の低い炭素がNADPHによって還元されると、メバロン酸が生成し最終的にコレステロールへ変換されてしまいます。

スタチン系の作用機序

これがコレステロール合成の律速酵素(律速段階)ということは、HMG–CoAからメバロン酸を生成するスピードがコレステロール合成全体のスピードを決めているということであり、ここを抑えることでコレステロール合成を効果的に抑制することができるのです。

スタチン系の化学構造式とファーマコフォア

さて、「薬が作用する」とはどういうことでしょうか?

スタチン系薬剤がHMG–CoA還元酵素を阻害しコレステロール合成を抑制する作用機序であることは説明しましたが、実際に薬が酵素に作用するメカニズムはどのようになっているのかご存知でしょうか。

「薬が作用する」というのは、基質(リガンド)と酵素(受容体)の関係が「鍵と鍵穴の関係」で表現されるのとまさに同じことなのです。

薬が特定の酵素(受容体)へ作用するために立体配置も含めた必須の構造を「ファーマコフォア」と言い、HMG–CoA還元酵素がHMG–CoAではなく、誤ってスタチン系薬剤を取り込んで安定的に相互作用してしまうような化学構造を持つことで「薬が作用する」のです。

スタチン系薬剤の場合は「メバロン酸の類似構造」(実際はHMG–CoAの遷移状態に類似の構造)を構造式中に持つことで、HMG–CoA還元酵素という鍵穴に作用する「鍵」の役割を担っているわけです。

それではまた化学構造式を見てみましょう!

まずはプラバスタチンとシンバスタチンです。

メバロン酸とプラバスタチンとシンバスタチンの構造式

プラバスタチンの右上がメバロン酸の類似構造になっていますね!

シンバスタチンは特殊で、元は環状エステル(ラクトン)の形で、”体内に取り込まれた後にエステルが加水分解されて活性化する製剤”(プロドラッグ)の一種です。

活性型の方はメバロン酸類似構造となっています。

残りのスタチン系も見てみましょう。

ロスバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、フルバスタチンの構造式

いずれもしっかり「メバロン酸類似構造」を持っていることがわかります。

このように、スタチン系薬剤はファーマコフォアとしてメバロン酸類似構造(HMG–CoA遷移状態の類似構造)を持っているためHMG–CoA還元酵素に作用できるのです。

スタチン系のそれぞれの強さに関しては今回言及しませんが、酵素への親和性と相互作用の強さが影響します。

モナコリンK と スタチン系

では、再度モナコリンKとスタチン系の構造式を見比べてみましょう!

シンバスタチンだけでなくプラバスタチンも大変似ていますね。

いずれも初期にカビから開発された薬剤であり、化学的な修飾を少し加えたくらいで、こんなにも似ているのです。

このように、化学構造式とファーマコフォアの観点からモナコリンKもスタチン系と全く同じ作用機序を持つことが容易にわかります。

モナコリンKとプラバスタチン、シンバスタチンの構造式

なお、プラバスタチンはモナコリンKに比べ、ラクトンではなく既に鎖状のカルボン酸体であること、メチル基が水酸基に置き換わった(極性の高い)形になっていることから、スタチン系の中でも水溶性が高い(腎排泄されやすい)という特徴を持っています。

モナコリンKもシンバスタチン同様、生体内でラクトンが加水分解されて代謝活性化するプロドラッグの一つであることも、これまでの説明から理解できますね!

健康被害が報告された製品に含まれる化合物

健康被害が起きた原因は未だ解明に至っていません。

しかし、令和6年5月28日時点で判明している化合物が公表されているので下記リンクもご参照ください。

cf.小林製薬社製の紅麹を含む食品の事案に係る取組について(国立医薬品食品衛生研究所)(5月28日公表)

モナコリンK誘導体の構造式
画像:厚生労働省HP抜粋 国立医薬品食品衛生研究所資料

プベルル酸はほとんど情報がなく、ヒトにおける毒性についてもよくわかっていません。

一方で、化合物YやZはここまで解説してきたモナコリンKに類似した構造を持っているようです。

モナコリンK 類似の化合物YやZの本質的な問題点

モナコリンK類似構造の化合物YやZが抱える本質的な問題について考えてみましょう。

解説したことから単純に考えても、「化学構造が似ているということは似たような作用を持つ可能性が高い」ということです。

しかしながら、化学構造が似ていれば必ずしも作用が似るとも限りません。

これこそ私が以前から発信している「ファーマコフォア」や「構造活性相関」という医薬品の化学構造を考える上で最も重要なポイントです。

「ファーマコフォア」について過去の記事で詳しく解説しているのでぜひ参考にしてください!

↓↓↓

【 ファーマコフォア 】薬学に重要なファーマコフォアの見つけ方と化学構造式をわかりやすく解説!

ファーマコフォアにおける問題点

化合物YやZの「ファーマコフォア」における問題点とは「スタチン系と似た作用を示すかどうか」です。

たとえ成分の化学構造が全く異なるとしても、ファーマコフォアが似ているなら似た作用を示す可能性が高いのです。

スタチン系の化学構造式とファーマコフォアで説明したように、薬の作用とは化合物と酵素(受容体)の相互作用であり「鍵と鍵穴の関係」です。

しかし、もっと厳密に言えば、実際には鍵穴に対する鍵の種類は一つではありません。

つまり、鍵と鍵穴は互いに一対の関係ではなく、それぞれ何種類もの鍵と鍵穴の組み合わせでフィットしてしまうのです。

これを【特異性(選択性)が低い】と言います。

鍵(薬)も鍵穴(酵素・受容体)も、ある程度形が似ていれば開いて(作用して)しまう。

体内に入った薬に差はあれど、本来は様々な酵素・受容体に作用し、ある薬がどの酵素・受容体に作用しやすいかといった違いでしかありません。

脱線しましたが、新たに判明した化合物YやZはモナコリンKの基本骨格、さらにメバロン酸類似の部分構造を持つことで、ファーマコフォアの観点からスタチン系と似た作用を示す可能性が非常に高いと推測できます。

構造活性相関における問題点

構造活性相関とは「化学構造と生理活性の強さの関係」のことです。

ある酵素や受容体の働きを阻害する時、部分的に化学構造を変えると阻害の強さも変化します。(もちろん変化しない場合もあります。)

今回の化合物YやZで構造活性相関における問題点が何かと言えば「作用の強さがどう変化するのか」です。

たとえば化合物YやZに特有の構造や官能基がモナコリンKより強い作用を示すものであれば、コレステロール低下作用だけでなくスタチン系としての副作用を増強する可能性や、予想だにしない副作用(毒性)を発現させる可能性まで秘めていることになるのです。

薬理や薬物動態における問題点

薬理や薬物動態における問題点とは
「紅麹における化合物YやZの含有量はどれくらいか」
「吸収・分布・代謝・排泄(ADME)がどのように変化するのか」

です。

菌株が産生する化合物YやZが多ければその分作用は強くなり、少なければ弱くなります。(実際はおそらくシグモイド曲線で頭打ちになると思われますが..)

つまり、一つは薬理における用量-反応性の問題です。

もう一つが薬物動態における問題で、化合物YやZがモナコリンKに比べて脂溶性の高い部分構造を持っていれば、おそらく消化管からの吸収効率が上昇し、吸収時間が早くなったり体内濃度も上昇しやすくなるでしょう。

また、化合物YやZが体内で代謝されにくい部分構造を持っているなら、体内に蓄積し排泄されにくくなることも予想できます。

最後に

いかがでしょうか?

改めて、原因はまだはっきりしていませんが、出ている情報をもとに薬剤師が化学・薬学の観点からどのようなことが言えるのか考察してみました。

今回の紅麹問題の経緯と結果がどうであれ、紅麹のモナコリンKとスタチン系薬剤の化学構造、薬理や薬物動態がここまで似てしまっているにもかかわらず、サプリメントとして広く市販されていること自体をそもそも問題視すべきなのです。

つまり、今回の紅麹問題はモナコリンK、もとい紅麹サプリが、食品(サプリメント)なのか医薬品なのか、その「食薬区分」の線引きから考え直さなければいけない大きな問題であるということです。

健康食品やサプリメントだからといって安全性を軽視したり過信してはいけないこともご理解いただけたのではないでしょうか。

化学構造式やファーマコフォアといった化学的視点、そこへ薬理や薬物動態を加えた薬学的視点の重要性まで理解し、参考にしていただけたら幸いです。

なお、薬剤師であればこうした視点で考察できるだけの素地は薬学部の学部教育レベルでも十分に持ち合わせている(はず?)です。

医療従事者の中で化学は薬剤師の専売特許なのですから、しっかり社会で活用していきたいですね!

化学構造式から考える力を養うためにおすすめの本・書籍も紹介しているので、こちらもぜひ参考にしてください!

↓↓↓

【化学構造式の勉強におすすめの本・書籍】構造式と薬理作用の関係を臨床へ活かせる本を紹介!

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