クロピドグレル(プラビックス®︎)とプラスグレル(エフィエント®︎)の違い〜抗血小板薬を化学構造式から比較〜

薬の化学構造と特徴 番外編

今回はクロピドグレル(プラビックス®︎)とプラスグレル(エフィエント®︎)の化学構造です。

チエノピリジン系抗血小板薬に分類されるクロピドグレルとプラスグレルですが、ファーマコフォアというよりもその代謝過程に特徴がよく表れています。

有機化学の反応機構を示していますが、薬剤師国家試験にも関与するような重要な反応も随所にあるので、薬剤師だけでなく薬学生の方々にも復習になるかもしれません。

これも有機化学と臨床が結びつく一例でしょう。

※実際の試験問題はこちら↓↓
第104回薬剤師国家試験 問209
第97回薬剤師国家試験 問107

チエノピリジン系抗血小板薬

薬理

チエノピリジン系抗血小板薬は血小板上にあるGiタンパク質共役型のADP(アデノシン二リン酸)受容体(P2Y12)をジスルフィド(–S–S–)結合で不可逆的に阻害し、
アデニル酸シクラーゼ活性抑制の阻害(つまり活性増強)によりcAMPを増加させCa2+流入を抑制
PI3キナーゼの活性化抑制によるGPⅡb/Ⅲa活性化を抑制
することで血小板凝集を抑制します。

プラスグレルの作用機序
出典:エフィエント®︎錠インタビューフォーム

化学構造式

『チエノピリジン』はチオフェンとピリジンがくっ付いたもので窒素N原子の位置によって異性体がいくつかあります。

チエノピリジンの構造式
チエノピリジンの一例

チエノピリジン系抗血小板薬は、正確にはピリジン環ではないもののピリジン類似の骨格を持ち、いずれも体内で代謝活性化された生成物が作用を発揮するプロドラッグ製剤です。

それぞれ化学構造式もよく似ていて、副作用の軽減や代謝の効率化などを目的に改良が重ねられています。

チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレルの化学構造式
チエノピリジン系抗血小板薬

今回の記事では、そんな改良されている部分もわかると思います。

クロピドグレル(プラビックス®︎)の代謝活性化

ここでは代表してクロピドグレルの代謝を有機化学的な反応機構を用いて過程を見ていきます。
チクロピジンの代謝活性化過程も同様と推測できますがインタビューフォームには記載がありませんでした..。

※反応機構はH2OやH3O(オキソニウムイオン)などが書いてあった方がわかりやすいと思うので今回はなるべく加えています。

CYPは代謝の第Ⅰ相反応として化合物の水溶性(極性)を高め排泄させやすくする役割があるため、そうしたことも意識しながら見てみると良いでしょう!

第一段階(クロピドグレル→ヒドロキシチオフェン)

第一段階はCYPによる代謝でヒドロキシチオフェンからケト–エノール互変異性を経てチオラクトンを生成する過程で、ここではエポキシドを経由するパターンと、S–オキシドを経由するパターンを確認します。

クロピドグレルの活性代謝物の血中濃度の立ち上がりや遺伝子多型による個人差の影響がプラスグレルより出やすいのも、この過程の違いが大きいと言えるでしょう。

記事後半の『追記』ではDiels–Alder反応による2量体の生成も載せています。

①エポキシド

エポキシドを経由するパターンです。

CYP代謝を受けてエポキシドが生成し、その後NIHシフトによってエノール形であるヒドロキシチオフェンが生成します。

クロピドグレル(プラビックス®︎)の代謝反応

②S-オキシド

S–オキシドを経由するパターンです。

これが主要代謝経路なのか、インタビューフォームにはこちらの経路が示されています。

クロピドグレル(プラビックス®︎)の代謝反応

S-オキシド体はDiels-Alder反応で2量体を形成する可能があります(本稿『追記』)。

第二段階(ヒドロキシチオフェン→活性代謝物)

ケト–エノール互変異性で生成したチオラクトンが活性代謝物になる過程です。

チオラクトンが開環しスルフェン酸となり、その後グルタチオンによる抱合と還元を受けて活性体になります。

①スルフェン酸の生成

ヒドロキシチオフェンはケト–エノール互変異性によりケト形のチオラクトンに変換、その後CYPにより極性が高められ、開環しスルフェン酸になります。

クロピドグレル(プラビックス®︎)の代謝反応

②グルタチオン抱合と還元

クロピドグレルのスルフェン酸中間体はグルタチオン抱合を受け、その後さらに別のグルタチオンによって還元されチオール(–SH)基を持つ活性代謝物となります。

クロピドグレル(プラビックス®︎)の代謝反応

このチオール基が受容体(P2Y12)のCys残基とジスルフィド(–S–S–)結合することで、不可逆的に機能を阻害する作用を発揮しています。

クロピドグレル(プラビックス®︎)のファーマコフォア

ファーマコフォアも確認してみましょう!

チエノピリジン系抗血小板薬全般に共通しているはずですが、チオール(–SH)基がP2Y12受容体のCys残基とジスルフィド(–S–S–)結合します。

カルボキシ(–COOH)基は受容体Lys残基のアミノ(–NH2)基と静電相互作用によって固定・安定化されます。

クロピドグレル(プラビックス®︎)のファーマコフォア
H2O、H3O+は省略

出血リスクなどに応じて術前の休薬期間を5(or7)〜14日間必要とするのも、このように共有結合で不可逆的に阻害された血小板の寿命が約7〜10日であることが関係しています。

プラスグレル(エフィエント®︎)

プラスグレルのメリットはクロピドグレルのようにCYP2C19の遺伝子多型の影響を受けにくく代謝活性化が効率的であるところですが、では、実際に代謝過程から見るとどの部分なのか確認してみましょう!

プラスグレル(エフィエント®︎)の代謝活性化

大きなポイントは、クロピドグレルはヒドロキシチオフェンを生成するのにCYP代謝が必要だが、プラスグレルはエステラーゼによるエステルの加水分解で生成することができる、ということです。

プラスグレル(エフィエント®︎)の代謝反応

このエステルの加水分解から代謝活性物への変換が速やかに行われるため、代謝活性物のCmaxやAUCはクロピドグレルに比べ高くなっていると考えられています。

第104回薬剤師国家試験 問209

プラスグレルの代謝活性化は第104回薬剤師国家試験でも問われているので確認しておきましょう。
答えはわかりますね!

薬剤師国家試験のプラスグレル(エフィエント®︎)

正答:2

出典:厚生労働省HP

まとめ

いかがでしょうか?

最後に、プラスグレルがクロピドグレルをどのように改良したものなのか化学構造式で比較して見ます。

クロピドグレル(プラビックス®︎)とプラスグレル(エフィエント®︎)の違い

クロピドグレルに含まれるエステルは同様に体内で加水分解され不活性な代謝物を与え、また、ヒドロキシチオフェンを得る初期の段階で遺伝子多型の存在するCYP代謝も必要で、これらが作用ムラに影響しています。

対してプラスグレルは、クロピドグレルで加水分解を受けるエステル部分がケトンで保護され加水分解を受けず、また、チオフェン環に付いたエステルが速やかに加水分解されることで効率的な代謝活性化を実現しています。

ステント血栓症の早期予防にプラスグレルが使用されるのも納得ですね!

反応機構に関してこちらの書籍でも解説されています💡
↓↓↓

追記. クロピドグレル(プラビックス®︎)とDiels-Alder反応

有機化学的な追記ですが、文献を探ると、クロピドグレルはS–オキシドの2量体も形成することが示唆されています。

こちらはおそらく代謝不活性な化合物ではないかと思います。

クロピドグレル S-オキシド2量体

チオフェン環はオキシドになると反応性が増し、クロピドグレル2分子間でDiels–Alder反応を起こす可能性があります。

ディールスアルダー反応の図

Diels–Alder反応はペリ環状反応の一つで、[4+2]環状付加とも言われます。

共役ジエンのHOMO(最高被占軌道)とジエノフィルのLUMO(最低空軌道)の相互作用で協奏的な反応を起こし、速度論的支配ではendo付加体の新たな6員環を形成します。

クロピドグレル(プラビックス®︎)の二量体の図

見やすくするため、反応に直接関与しない部分構造をRとして反応と生成物を模式的に示してみました。

第97回薬剤師国家試験 問107

薬剤師国家試験でも過去に問われているので薬学生は復習しておきましょう!

薬剤師国家試験のディールスアルダー反応
厚生労働省HP

正答:1、2

出典:厚生労働省HP

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参考:
・Jan Kiebist, et al. Biocatalytic Syntheses of Antiplatelet Metabolites of the Thienopyridines Clopidogrel and Prasugrel Using Fungal Peroxygenases. J Fangi (Basel). 2021 Sep; 7(9): 752.
・D Mansuy. Brief historical overview and recent progress on cytochromes P450: Adaptation of aerobic organisms to their chemical environment and new mechanisms of prodrug bioactivation. Annales Pharmaceutiques Francaises. Volume 69, Issue 1. January 2011, Pages 62.
・Katsunobu Hagihara, et al. Thienopyridine P2Y12 receptor antagonists ; unknown pharmacological active metabolites and metabolic activation mechanisms. Drug Delivery System. 30-5, 2015.
・各薬剤インタビューフォーム(IF)
・大高 章 他「7章 循環器疾患とその治療薬」『臨床医薬品化学』p112〜134 化学同人 2022

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