【スルホンアミド系薬剤過敏症】交差反応性をサルファ剤の化学構造式から比較!

薬の化学構造と特徴 番外編

スルホンアミド系 の薬剤は,構造式中にスルホンアミドもしくはスルホンアミド類似構造を含む薬剤のことで,これらは医薬品添付文書上の禁忌事項にも度々『スルホンアミド系薬剤に対し過敏症の既往歴のある患者』などと記載があります。

スルホンアミド系の化学構造式の図
スルホンアミド Yuya.T@薬剤師

しかし,スルホンアミドを有する薬剤でも,添付文書に全く注意書きのないものから,このように禁忌に該当するものまで統一性がないのもまた医療従事者を困らせています。

果たしてどの程度注意すべきでしょうか。

というわけで今回はスルホンアミド系薬剤過敏症について化学構造や交差反応性など代表的な薬剤を一覧にしてみました。

ちなみに、スルホンアミド系薬剤のようなスルホニル(–SO2–)基には光線過敏症との関連性もあるとされるため、過去にまとめた光線過敏症と薬の構造の記事もご参考までに!
cf. 光線過敏症と薬の構造

スルホンアミド系 薬剤の始まり「サルファ剤」

そもそもスルホンアミド過敏症が問題となったのは,抗菌薬の始まりであるサルファ剤と言われています。

サルファ剤はスルファミン(p–アミノベンゼンスルホンアミド)部分が細菌の増殖に必要なp–アミノ安息香酸に似ているため競合し,核酸塩基の合成などに必要なテトラヒドロ葉酸の生合成を抑制することで抗菌活性を示します。

近年では様々な薬剤がスルホンアミド類似構造を持ち,サルファ剤の副作用を利用して利尿薬やSU薬が開発され,スルホンアミドは酸性を示すのでカルボン酸のバイオアイソスターとしても水溶性と代謝安定性の向上に役立っています。


※バイオアイソスター:生物学的等価体。作用機序を維持したまま活性や受容体選択,物性(安定性や溶解性),薬物動態などを変化させる置き換えが可能な官能基。–COOH ⇄ –SO2–NH2など。

サルファ剤の化学構造と過敏症反応

サルファ剤の構造式

サルファ剤の過敏症反応はN1部位のN含有複素環,N4部位のアミンが構造的に重要です。それぞれ、N1部位のN含有複素環がⅠ型アレルギー反応,N4部位がⅠ型アレルギー以外の過敏症反応に関与するとされています。

サルファ剤とアレルギーの関係の図
Yuya.T@薬剤師

N1、N4部位

N1部位にN含有複素環を持つことで,共鳴・誘起効果によりN1部位のHの酸性度が上昇、水溶性も向上するものの,これがアレルギーの要因になると考えられ、実際にⅠ型アレルギー反応ではスルホンアミドとIgEは結合せず、N1部位のN含有複素環がIgEによって認識されるようです。

N4部位のアミンは代謝によりヒドロキシ(–NH–OH)化,さらに代謝(酸化)反応が進行するとニトロソ(–N=O)化され,これが免疫原性に関与。

本来であればこれらはグルタチオン抱合やNAT2によるアセチル化を受けて減少しますが,グルタチオン抱合能の低下やNAT2のslow-acetylatorの患者ではスルホンアミド系抗菌薬であるサルファ剤の代謝能が低く、Ⅰ型以外の過敏症反応を引き起こす傾向にもあるようです。

つまり構造上のスルホンアミドそのものが問題なのではなく,サルファ剤が持つN1のN含有複素環、N4アミンの両方を持つことが交差反応のリスクを高め,より注意を要すると言えます。

スルホンアミド系 と サルファ剤 の交差反応性

サルファ剤

先述のように、N1,4部位の構造類似性を同時に持つ場合に交差反応のリスクが高くなり、どちらか片方のみだとリスクは低くなります。

交差反応のリスクが高いとされる薬剤は主にサルファ剤で,臨床現場でよく目にするのはスルファメトキサゾール、サラゾスルファピリジンでしょうか。

構造比較と添付文書上での注意について一覧にして確認してみます。

スルホンアミド系薬剤
(成分名/商品名)
構造式ベンゼンスルホン酸N1(N含有複素環)N4(アミン)添付文書
・サラゾスファピリジン
(アザルフィジン®︎)
 禁忌
・スルファメトキサゾール
(ダイフェン®︎配合錠,バクタ®︎配合錠など)
 禁忌
Yuya.T@薬剤師

全てを満たし,アレルギー,それ以外の過敏症ともに交差反応のリスクが高いことがわかります。

その他の スルホンアミド系

では交差反応性が低いと考えられるその他のスルホンアミド系薬剤はどうでしょうか。

スルホンアミド構造を持つ全ての薬剤を確認したわけではないですが、代表的なものを一覧で確認してみます。

スルホンアミド系薬剤
(成分名/商品名)
構造式ベンゼンスルホン酸
(o類似)
N1(N含有複素環)
(or類似)
N4(アミン)
(or類似)
添付文書
炭酸脱水酵素阻害薬
・アセタゾラミド
(ダイアモックス®︎)
 禁忌
チアジド系利尿薬
・トリクロルメチアジド
(フルイトラン®︎)
・ヒドロクロロチアジド
(先発販売中止)
 禁忌
ループ利尿薬
・アゾセミド
(ダイアート®︎)
・トラセミド
(ルプラック®︎)
・フロセミド
(ラシックス®︎)
 禁忌
SU薬
・グリクラジド
(グリミクロン®︎)
・グリベンクラミド
(オイグルコン®︎)
・グリメピリド
(アマリール®︎)
 禁忌
トリプタン系
・スマトリプタン
(イミグラン®︎)
・ナラトリプタン
(アマージ®︎)
   注意
オキシカム系
・アンピロキシカム
(フルカム®︎)
・ピロキシカム
(パキソ®︎)
・メロキシカム
(モービック®︎)
・ロルノキシカム
(ロルカム®︎)
   
・オマリグリプチン
(マリゼブ®︎)
   
・スルピリド
(ドグマチール®︎)
   
・セレコキシブ
(セレコックス®︎)
 禁忌
・ゾニサミド
(エクセグラン®︎)
    
・タムスロシン
(ハルナール®︎)
   
・トピラマート
(トピナ®︎)
    
・ファモチジン
(ガスター®︎)
    
・プロベネシド
(ベネシッド®︎)
   
・ボノプラザン
(タケキャブ®︎)
   
・ロスバスタチン
(クレストール®︎)
   
※構造式はそれぞれ1番上の薬剤のみを掲載

N1,4部位の両方を満たす薬剤はなさそうですね。

開発経緯でもあるように,利尿薬やSU薬など,サルファ剤から発展し開発されたような薬効群では添付文書上で一律『禁忌』に該当しているのがわかります。

セレコキシブ(セレコックス®︎)では、ベンゼンスルホン酸とN4部位の類似性が利尿薬やSU薬とも似ており、禁忌になっているのも納得でしょうか。

いずれも化学構造上はサルファ剤との交差反応のリスクは低そうですが,N1部位(Ⅰ型アレルギーに関与)の部分ではロスバスタチンが当てはまります。

サルファ剤で“アレルギー“と言われている場合には注意していた方が良さそうですが、ロスバスタチンの他の部分構造・置換基がどの程度影響してくるかは不明なので,参考程度に頭の片隅にでもあれば良いかと思います。

スルホンアミド系 と 交差反応性

結論として、『スルホンアミド過敏症』は、実際にはスルホンアミドというよりその近辺の構造・置換基が重要で、サルファ剤とそれ以外のスルホンアミド系薬剤との間で交差反応のリスクは低いと言えそうです。

しかし、サルファ剤ではないスルホンアミド系薬剤同士の交差反応性はわからないので、その点はまだ議論の余地がありそうですね。

いずれにしても、“リスクが低い“というだけで“全くない“とは言い切れず、また、サルファ剤に過敏なこと自体が他のスルホンアミド系薬剤でも過敏に反応してしまっている可能性もあるため、スルホンアミドに過敏と思われる場合には、念のためでも薬剤の化学構造にも目を向けて注意しておきたいところです。

もし今後スルホンアミド過敏症がスルホンアミド自体との関連性に乏しいと判った時には、『スルホンアミド過敏症』という言葉自体の見直しも必要なのではないかと個人的に感じました。

併せて読みたい記事

参考:
・Sulfonamide Allergies. Amber Giles, et al. Pharmacy (Basel). 2019 Sep; 7(3): 132.
・Likelihood and mechanisms of cross-allergenicity between sulfonamide antibiotics and other drugs containing a sulfonamide functional group. Brackett C.C., Singh H., Block J.H. Pharmacotherapy. 2004;24:856–870.
・Absence of cross-reactivity between sulfonamide antimicrobials and sulfonamide nonantimicrobials. Strom B.L., Schinnar R., Apter A.J. New Engl. J. Med. 2003;349:1628–1635.
・Detection and combining site specificities of IgE antibodies to sulfamethoxazole. Harle D.G., Baldo B.A., Wells J.V. Mol. Immunol. 1988;25:1347–1354.
・Difference in risks of allergic reaction to sulfonamide drugs based on chemical structure. Verdel B.M., et al. Ann. Pharmacother. 2006;40:1040–1046. 
・スルホンアミド類似構造を有する医薬品の薬物過敏症に関する添付文書の調査研究 田中博之, 他 Jpn. J. Drug inform., 18(1): 1~6(2016)

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