今回は、”非常に似た構造式なのになぜそんなに性質が異なってくるのか”、というのを実感してもらうための記事です。共に14員環マクロライド系の エリスロマイシン と クラリスロマイシン は構造式がほとんど同じにもかかわらず、エリスロマイシンは酸に不安定で、クラリスロマイシンは酸に安定とされています。
エリスロマイシンとクラリスロマイシンの酸安定性の違いを化学的に見てみます。
エリスロマイシン と クラリスロマイシン の化学構造
早速、化学構造式を見比べると、、
14員環マクロライド系であるこの2種は、ラクトン環6位にある水酸基(-OH基)のHがメチル基(-CH3)へ置き換わっているだけの違いで、他は立体的にも全く同じ構造です。
たったこれだけの違いで、なぜエリスロマイシンよりクラリスロマイシンの方が酸に安定なのでしょうか?
エリスロマイシン 酸性条件下の反応
答えはエリスロマイシンの酸性条件下の反応にあります。
酸(H+)との反応が進むと、分子内脱水を経て抗菌不活性なスピロケタール体を形成し、エリスロマイシンはpH2の環境下で数分程度で失活します。
そのため、6位の–OHを–OCH3に置き換えたクラリスロマイシンでは、H+と反応してスピロケタール体を形成することなく、酸に安定となっています。
参考:
・渡邊 慶昭「マクロライド抗生物質 クラリスロマイシンの製造研究」乙第19号
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