ボノプラザン( タケキャブ®︎ )は従来のPPIとは異なり、消化管内の酸にも安定で、K+と競合することで直接プロトンポンプを阻害できます。
従来のPPIと構造式的にも何が違うのか、そんなところにも着目して解説します。
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
PPIの作用機序と課題
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃底腺壁細胞に存在するプロトンポンプ(H+, K+–ATPase)を阻害することで、胃酸の分泌を阻害する薬剤です。
従来のPPIは一度消化管で吸収された後、全身の血流に乗って胃のプロトンポンプ付近(酸性領域)に到達した後、酸(H+)による活性化を必要とします。
しかし、これらが臨床では短所となる場合があります。
こうした弱点を克服したのが後に紹介するボノプラザン(タケキャブ®︎)です。
(ボノプラザンはCYP3A4の代謝を受け、CYP3A4の弱い阻害作用も持ちます)
PPIと酸(H+)の反応機構
PPIとH+の反応機構を確認してみましょう。
プロトンポンプとジスルフィド(–S–S–)結合するまでにこの反応ではPPI1分子あたりH+が3つ必要で、H+との反応によりアンモニウムイオンとなるため水溶性も高まります。
PPIが弱塩基性(どの薬剤もpKaはおよそ8.8)の分子であることも納得ですね。
この反応が胃内で進行してしまうと分解され、陽イオンによる水溶性上昇で吸収も悪くなり、プロトンポンプへ到達できず薬効を発揮できなくなります。そのためPPIは一般的に腸溶性製剤であり粉砕不可(OD錠も腸溶性細粒を含むため粉砕不可)となっています。
そしてプロトンポンプのCys残基のーSH基と共有結合することで、非可逆的な阻害機構が成立します。
ボノプラザン( タケキャブ®︎ )
ボノプラザン( タケキャブ®︎ )と従来PPIの作用機序の比較
ボノプラザン(タケキャブ®︎)は従来のPPIとは異なり、消化管内の酸にも安定で、K+と競合することで直接プロトンポンプを阻害できます。
このためボノプラザンはP–CAB(Potassium–competitive acid blocker)に分類されます。
臨床的に意味のある差かどうかは別で考えなければなりませんが、作用機序的には他のPPIより使いやすそうです。
ボノプラザン( タケキャブ®︎ )の化学構造と特徴
塩基性が他のP–CAB(日本では未承認)よりも高く(pKa≒9.3)、容易にイオン化されるも酸に安定で分解されることなく、プロトンポンプに選択的に集積しやすくなっています。
また、胃管腔側からプロトンポンプに作用し、H+による活性化が必要なく作用のムラも小さいため、従来のPPIに比べて即効性を期待できるのも特長です。
分子全体としてアミノ基の陽イオンがKの陽イオン(K+)の代わりにプロトンポンプのK+結合部位で相互作用し、K+の通り道を塞ぐことで物理的にもプロトンポンプの機能を阻害します。
このようなことから、ボノプラザンは酸分泌に非依存的でプロトンポンプへの選択性・持続性が高いと考えられます。
*ボノプラザンの構造式中にはスルホンアミド類似構造を含みます
スルホンアミド過敏症と交差反応性についてはこちら
ボノプラザン( タケキャブ®︎ )と従来PPIの阻害活性の比較
条件がまちまちで正確な比較ができない上、PPIはpHによって活性の強さが異なるので、ボノプラザンとPPI各種で単純に比較すると、
ボノプラザン>PPI各種
となりそうです。薬効にpHの影響を受けないのはやはり強いですね!
(PPIの中でもラベプラゾールNaは阻害活性が強いとされます)
以上から、化学構造やpKa、薬理的な作用機序の観点で、ボノプラザンは従来PPIの課題とされる部分を上手くカバーした薬剤となっています。
追記. PPIやボノプラザン( タケキャブ®︎ )のpKa≒9.3は薬効にどう影響している?
ピリジン由来と考えられるpKa≒4.5はPPIとボノプラザン共通のため今回は割愛し、PPIのpKa≒8.8(ベンズイミダゾール由来)とボノプラザンのpKa≒9.3(アルキルアミン由来)に着目してみます。
pKaは底が10の常用対数なので、PPIとボノプラザンのpKaの差9.3−8.8=0.5は、同じpHの時のイオン形の比(弱塩基性物質のため)が、PPI:ボノプラザン=1:100.5(=3.16)であることを表します。
Henderson-Hasselbalch(ヘンダーソン・ハッセルバルヒ)式
薬剤師国家試験でも狙われるはず(?)なので薬学部の方は復習を!
PPIは弱塩基性物質なので、分子形とイオン形の存在比、pHとpKaの関係を表すHenderson-Hasselbalch式はpH=pKa+log([B]/[BH+])となります。
ちなみに弱酸性物質の時はpH=pKa+log([A–]/[HA])ですね!
解離平衡の関係式(HA + H2O ⇄ H3O+ + A–、酸解離定数Ka)から導出できるようにしておきましょう!
胃内pH=1の時
PPI→分子形:イオン形=1:107.8
ボノプラザン→分子形:イオン形=1:108.3
(→108.3=107.8×100.5=PPIイオン形×3.16となり、確かにボノプラザンイオン形はPPIイオン形の3.16倍になっていますね!)
よって、どちらもほぼ100%イオン形として存在します。
胃内pH=4の時
食後、もしくはPPIなどの胃酸分泌抑制薬を使用していればこのくらいのpH環境が想定されます。
この時、
PPI→分子形:イオン形=1:104.8
ボノプラザン→分子形:イオン形=1:105.3
であり、この条件下でもどちらもほぼ100%イオン形で存在します。
小腸pH=7の時
PPI→分子形:イオン形=1:101.8
ボノプラザン→分子形:イオン形=1:102.3
101.8≒63、102.3≒200、なのでそれぞれの分子形分率を求めると、
PPIの分子形分率:
1/(1+63)≒1.6%
ボノプラザンの分子形分率:
1/(1+200)≒0.5%
どちらも小腸のpHでもほとんどイオン形として存在することがわかります。
ただし、インタビューフォームで分配係数を確認すると、PPIに関してはどのpHでも比較的脂溶性の高いことがわかるので、吸収プロファイルに関してはそこまで影響はないのかもしれません。
(ボノプラザンはpH=7の時、分配係数logP=–0.0059のため水と1–オクタノールに1:1で分離する)
まとめ
以上のpKaの値、PPIとボノプラザンの作用機序の違いからまとめると、
本来はピリジン由来のpKaまで考慮しなければ薬効群全体としての作用を考察する上で意味がないですが、分かりやすさ優先で省略・簡略化しました。pKaの活かし方の一つとして参考になれば幸いです。
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参考:
・jai Moo Shin, et al., Characterization of a novel potassium-competitive acid blocker of the gastric H,K-ATPase, 1-[5-(2-fluorophenyl)-1-(pyridin-3-ylsulfonyl)-1H-pyrrol-3-yl]-N-methylmethanamine monofumarate (TAK-438). J Pharmacol Exp Ther, 2011 Nov;339(2):412-20.
・D R Scott, et al., The binding selectivity of vonoprazan (TAK-438) to the gastric H+, K+ -ATPase. Aliment Pharmacol Ther, 2015 Dec;42(11-12):1315-26.
・各薬剤インタビューフォーム
・松川 純 他, 新規カリウムイオン競合型アシッドブロッカー ボノプラザンフマル酸塩の薬理学的特性と臨床効果, 日薬理誌 152, 104〜110(2018)