【ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬】エサキセレノン(ミネブロ®︎)と従来薬を化学構造式で比較!

薬の化学構造と特徴

ミネラルコルチコイド

ミネラルコルチコイド はステロイドホルモンの一種で、副腎皮質の球状層(最も外側)で生成・分泌され代表的なものとしてアルドステロンがあります。

ミネラルコルチコイド受容体(MR)は心臓や血管以外に主に腎臓の遠位尿細管などに発現し、アルドステロンが結合するとNa再吸収により血圧が上昇します。

レニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAA)系は、もともと生物が陸上で生活するために体液の恒常性を保つ役割として備わっていたもので、現代ではNa+を溜め込むと血圧維持にはかえって悪影響になる場合があり降圧薬の標的因子となっています。

他のステロイドホルモンにも近い構造で、またそれぞれの受容体のアミノ酸配列や三次元構造が似ていることからも、MRにのみ選択的に作用する薬剤が求められていました。

ミネラルコルチコイド 受容体(MR)拮抗薬

構造上の特徴として、従来のMR拮抗薬はステロイド骨格を持ち他のステロイドホルモンとも競合しやすく、MR以外のステロイドホルモン受容体にも作用するため副作用が問題となっていました。

アルドステロンに拮抗することで起こる薬理学的な副作用として代表的なものは『高K血症』ですが、ステロイド骨格を持つことでプロゲステロン受容体(PR)、アンドロゲン受容体(AR)、グルコ(糖質)コルチコイド受容体(GR)へそれぞれ影響が出やすくなります。

特にスピロノラクトン(アルダクトン®︎)は、男性ホルモンであるテストステロンをそのまま部分構造として持つため抗アンドロゲン作用も示し、副作用である女性化乳房や月経不順などの原因となっています。逆にこれらを利用して適応外でニキビや脱毛症の治療薬としても用いられることがあります。

このスピロノラクトンの副作用軽減のため、MRへの選択性を高めたのがエプレレノン(セララ®︎)で、MRへの選択性は高いものの阻害活性はスピロノラクトンに劣り、弱いながらもGRへの親和性も持っている薬剤です。

そして2019年に上市されたエサキセレノン(ミネブロ®︎)は、ステロイド骨格を持たない全く新しいMR拮抗薬で、従来の薬剤で問題となったPR、AR、GRへの影響がほぼなく阻害活性も高い薬剤となっています。

スピロノラクトン(アルダクトン®︎)、エプレレノン(セララ®︎)

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、スピロノラクトンとエプレレノンの化学構造


スピロノラクトンとエプレレノンのMRへの結合様式は似ており、ステロイド骨格A環のケトンO原子と、γ-ラクトン環O原子が水素結合を形成しているとされています。

エプレレノンの阻害活性の低さは、受容体のアミノ酸残基との距離が遠いことも可能性としてあるようです。

スピロノラクトンとエプレレノンの構造上の違いは、①ステロイド骨格B環のチオエステルとエステル、②C環のエポキシドの有無、です。

フリーで確認可能な文献ではこれ以上の結晶構造解析情報は得られませんでしたが、これら2カ所の構造の違いが薬理作用の違いを生み出していることは言うまでもありません。

あくまで推測ですが、①反応性:チオエステル>エステル、②立体障害、の影響が考えられます。

スピロノラクトンではC11位に–OH基がなくテストステロンそのものの構造を分子内に含む形となっています。

エプレレノンでは立体配置がアルドステロンやコルチゾールと反対ではあるものの、C9-11位にエポキシドを含み–OH基に近いひずみを受容体に与えている可能性も考えられます。

(そう考えるとエプレレノンがPRやARに結合せず、MRとGRへの結合親和性のみ持つこととも一応矛盾はしません…)

後述しますが、これらステロイド骨格を持つMR拮抗薬は、MRの浅い部分で結合しているとされ、これがMRを含む他のステロイドホルモン受容体への結合親和性にも影響しているようです。

エサキセレノン(ミネブロ®︎)

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、エサキセレノンの化学構造式

エサキセレノンはスピロノラクトンやエプレレノンに比べて非常に高いMR選択性と阻害活性を持ち、その大きな理由は、①分子の形、②Ser810との水素結合、とされています。

エサキセレノンは他のMR拮抗薬と違い、MRの核となる部分に深く入り込み、受容体ポケットに非常に適した化学構造です。

受容体のコアでSer810と水素結合(②)するものの、実はPR、AR、GRではこの部分にMet残基があり、Serに比べ嵩高いMetの影響でエサキセレノンが受容体に入り込めなくなるため、MR以外のステロイドホルモン受容体とは結合できず非常に高い選択性を獲得しています。

また、半減期を比較してみても、エプレレノン約5時間、スピロノラクトン約13時間(α相:1.8時間、β相:11.6時間)、エサキセレノン約18時間となり、構造特性を反映した結果と言えます。

最後に

RAA系に作用する薬剤は、総じてアルドステロン抑制作用により血清K値の上昇が問題になります。

またアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の使用後1年以内に、多いと約50%近くにアルドステロンブレイクスルーが起こるとする報告もあり、その対応にもMR拮抗薬が選択肢となります。

その点でもステロイド骨格を持つMR拮抗薬ではなく、エサキセレノン(ミネブロ®︎)のような高選択性・高力価で他のステロイドホルモン受容体にほとんど影響しない薬剤の方が、やはり副作用防止の観点からも期待は大きいのではと感じます。

※アルドステロンブレイクスルー:ACE阻害薬やARBの使用によって、別ルートで代償的にアルドステロンが生成され血圧上昇や心肥大を引き起こす現象。ARBの中でもオルメサルタン(オルメテック®︎)はアルドステロンブレイクスルーを起こしにくいとされている。

例によりヒトMRへの阻害活性(IC50)を比較すると、
エサキセレノン>スピロノラクトン>エプレレノン

臨床用量(1日量)では、
エサキセレノン(5mg)≒スピロノラクトン(100mg)>エプレレノン(100mg)

となりそうです。

エサキセレノンが中等度腎機能障害、アルブミン尿や蛋白尿のある2型糖尿病患者の高血圧に投与可能な点もメリットの1つと言えるかもしれません。(エプレレノンを「高血圧」に対して処方する場合は、これらは禁忌となります。)

追記.新規MR拮抗薬フィネレノン(ケレンディア®︎)

フィネレノン(ケレンディア®︎)がステロイド骨格を持たない、日本で2剤目の新規MR拮抗薬として、日本でも承認されました(2022/4現在)。

構造的な特徴も簡単にまとめているので、こちらの記事(フィネレノン(ケレンディア®︎)の構造と特徴)もご参照ください。

併せて読みたい記事

参考:
・Mizuki Takahashi, et al. Crystal structure of the mineralocorticoid receptor ligand-binding domain in complex with a potent and selective nonsteroidal blocker, esaxerenone (CS-3150). FEBS Letters. 28 January 2020. https://doi.org/10.1002/1873-3468.13746
・Kristen Bamberg, et al. Preclinical pharmacology of AZD9977: A novel mineralocorticoid receptor modulator separating organ protection from effects on electrolyte excretion. PLos One. 2018; 13(2): e0193380. PMID: 29474466
・各種IF(ミネブロ®︎錠インタビューフォーム

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