光線過敏症 と 医薬品
光線過敏症 は太陽光線(紫外線)に当たり皮膚炎を生じるもので原因は様々です。
この記事では特に薬剤によって起こり得るもののうち、その原因薬剤となる化学構造を確認してみようと思います。
第103回薬剤師国家試験 問222〜225
以下は第103回薬剤師国家試験でも実際に出題された内容ですが、構造式からもある程度推測することが可能です。(問題・解答は厚生労働省抜粋)
光線過敏症 と 化学構造
では、実際にどのような薬剤が当てはまるかというと、構造式中にベンゾフェノンが含まれているかどうかが目安になります。
ケトプロフェンやフェノフィブラートなどは有名でわかりやすいと思います。
ベンゾフェノンが光エネルギーにより励起され直接毒性を示す光毒性と、励起された反応性の高い中間体が生体内タンパク質と結合し抗原と認識されアレルギー反応を引き起す光アレルギーがあり、ベンゾフェノンが含まれなくとも『ベンゾフェノン類似構造』や『ローンペア+共役二重結合』が光で励起され,光線過敏症の原因となり得ます。
特にベンゾフェノンでは,ローンペア+共役系が光照射によってラジカル中間体の中でも安定な構造(ケチルラジカル)を経由して,生体内タンパク質との反応が進むと考えられます。(ラジカルの安定性の順位はカチオンと同じ,3級>2級>1級)
薬剤性光線過敏症は頻度不明のものも含めて、実際にはかなりの種類の医薬品に当てはまる可能性があり、スルホンアミド系薬剤に代表されるようなスルホニル(–SO2−)基の存在も関連性があるようです。
では,光線過敏症の原因となり得る薬剤の一部の構造式を見てみましょう!
先程の国家試験問題の「ジクロフェナク」も、このベンゾフェノン類似構造によるものだろうと推測できますね。
また、内服薬で光線過敏症?と感じるかもしれませんが、原因薬剤が血流に乗り真皮や表皮に到達すると、紫外線の中でも透過性の高いUVAなどの照射を受けて分子が励起すると考えられます。
ここまで見ると、第103回薬剤師国家試験の問224にあるような「メフェナム酸」にも、もしかしたら光線過敏症が現れる可能性もありそうですよね。
おそらく実臨床で報告がなく添付文書上にも記載がないことから“不適切”なのだと思いますが、構造式から考えるという点では、頭の片隅にでもあるといいかもしれません。
光線過敏症 と 日焼け止め
せっかくなので“日焼け止め”についても見てみましょう!
日焼け止めの成分には、大きく『紫外線吸収剤』と『紫外線散乱剤』があります。(当該国家試験でも出題されていますね。)
実はこのうち、紫外線吸収剤には光線過敏症の原因となる成分もあります。
光線から守る日焼け止めで光線過敏症になっては世話がないのではと感じるかもしれませんが、ある種のトレードオフな側面があります。
これは化学の酸化還元反応で、「相手を酸化するのに自身は還元される必要がある」のと同様に、「紫外線を吸収するのに自身は紫外線で励起されやすい構造を持つ必要がある」ということです。
このため、紫外線吸収剤で光線過敏症になり得るという元も子もないような現象が成り立ちます。
では構造式を見てみましょう!
オクトクリレン,オキシベンゾン,ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルは構造式中にベンゾフェノン(類似構造)が含まれていて、この辺りは特にケトプロフェンとの交差反応リスクが高くなりそうです。
t–ブチルメトキシジベンゾイルメタン,メトキシケイ皮酸エチルへキシルはローンペア+共役二重結合を含みます。
これらの化合物は,いずれも日焼け止めに「紫外線吸収剤」として含まれる可能性のある成分です。
紫外線吸収剤は、紫外線の光エネルギーを自身のローンペア+共役系を励起させるのに消費させ、紫外線が皮膚まで到達しないようにする働きがありますが、人によっては反応生成物が毒性を示したり抗原の一部となりアレルギー反応が生じるため、皮膚の弱い方や敏感な方には注意が必要となります。
このように、光線過敏症を引き起こす薬剤、成分には共通・類似した化学構造があるため、構造式の知識が非常に役に立ちます。
参考・オススメ図書(化学構造と臨床)
薬剤師にとって化学は専売特許のようなもので、大学のカリキュラムでも多くの時間を割いて勉強する分野です。
そんな化学を臨床に活かせないのはもったいないですよね。
実務に活かす助けにできる参考書は非常に少ない印象ですが、ここでその一部を紹介します。
化学構造の勉強に良いオススメも記事にまとめてるので良ければこちらもどうぞ↓
くすりのかたち
著者自身が薬剤師ということもあり、より現場感覚に近く、化学構造の有用性をとてもわかりやすく紹介しています。
化学構造のどんなところに着目し、どんな特徴があらわれるのか、実例も交えた内容で参考になります。
今回の記事の「光線過敏症と化学構造」は本書にも解説があります。
実務に活かしやすい一冊かなと思います。
医薬品の化学
『くすりのかたち』よりは、より一層化学的な内容で、実例を反応機構を交えて解説しています。
本書も「光線過敏症と化学構造」を載せていますが、ラジカル反応の関与など、反応機構についても触れられています。
その他、添加物や薬物相互作用、光化学反応の生体内利用、置換基(官能基)の薬理への影響など、医薬品にまつわるあらゆる事象を化学で捉えた良書だと思います。
化学を実務に活かす中で「もう少し深めに理解したい!でも、わかりやすさも重視したい!」という場合にオススメの一冊です。
参考:
・高橋依秀,夏苅秀昭.「第2章4.光化学反応を勉強しよう!」『医薬品の化学』p84~89. じほう, 2019.
・豊田紗和子他, 薬物性光線過敏症と紫外線吸収スペクトルと構造の関連. Jpn. J. Drug inform, 21(2):70~78, 2019.