今回は ビラノア®︎ (ビラスチン)の母乳移行量を概算して、授乳中でも服用可能かどうか検討してみます。ビラノア®︎も乳児の用量が設定されていない薬剤で、国立成育医療研究センターで確認しても記載はありません。また比較的近年に上市された薬剤であることからもデータが不十分で、添付文書上もやはり「授乳を避けさせること」と明記されています。
今回も血中濃度とM/P比を用いて、例によって生後8ヶ月の乳児におけるRID(%)を確認してみます。
M/P比(母乳中薬物濃度/血中薬物濃度)
⇨薬の母乳移行の程度を表す指標
M/P比<1であることが望ましい
他の抗ヒスタミン薬(過去記事)
ビラノア®︎以外の抗ヒスタミン薬についても過去にまとめています。
↓考え方や計算方法などは過去記事も参照してください💡↓
ビラノア®︎ (ビラスチン)の母乳移行量(概算)
ビラノア®︎ のM/P比
まずはM/P比を確認します。インタビューフォーム(IF)には記載がなかったため、大鵬薬品の薬物動態試験概要文を参照すると、M/P比は、AUC比にして0.536とわかります。
ただ過去の記事でも述べたように、ラットでのデータのため、ヒトでの再現性や投与量の整合性は担保できません。参考程度とご理解ください。
※基本的にはインタビューフォームを確認することになりますが、M/P比を確認できない薬剤の場合は直接の計算ができないのでご注意ください。
ビラノア®︎ の薬物動態と計算
薬物動態のデータから反復投与による蓄積はないとされているため、単回経口投与のデータで問題ないことがわかります。
添付文書からCmax=278(ng/mL)として
Cmax × M/P比=278×0.536=149(ng/mL)=1.49×10-4(mg/mL)
生後8ヶ月の乳児の授乳量を200〜220mL/回、4〜5回/日として
1回あたりの母乳移行量(mg/回)=1.49×10-4×(200〜220)=(2.98〜3.28)×10-2(mg/回)・・・①
1日あたりの母乳移行量(mg/日)=①×(4〜5)=0.12〜0.16(mg/日)
と計算できます。
生後8ヶ月の乳児の体重を8kg、母親の体重を55kgとして、ビラノア®︎錠の成人常用量は20mgなので、
RID(%)={(0.12〜0.16)/8}/(20/55) ×100=4.1〜5.5(%)<10(%)
となり、安全に服用することができそうです。
この値は『常にCmaxの状態で1日4〜5回授乳し続けたことと同値』なので、やはり実際にはさらに小さいと推測できます。
まとめ
母乳移行量とRIDの計算式
ここまでで利用したビラノア®︎の母乳移行量の計算式を以下に示します。
これを利用すれば様々な授乳量に対しビラノア®︎の母乳移行量を計算できます。
また、安全に投与可能かどうか判断するためにぜひRID(%)も活用しましょう。
ビラノア®︎ の授乳タイミングでの変化
ビラノア®︎の単回経口投与の血中濃度推移のグラフを確認してみます。
12時間後にはビラスチンの血漿中濃度が約20(ng/mL)となっており、先の計算で利用したCmax=278(ng/mL)の1/10以下となることがわかります。
ビラノア®︎20mg服用後12時間経過した時の母乳移行量を計算してみると、
12時間後の1回あたりの母乳移行量は
(2.14〜2.35)×10-3(mg/回)・・・②
仮にビラノア®︎20mg服用12時間後を起点に4〜5回授乳(搾乳含めて)するとすれば、1日あたりの母乳移行量は
②×(4〜5)=(8.56〜11.8)×10−2(mg/日)
であり、
RID(%)=0.29〜0.41(%)<1%となるため、計算上はさらに安全性が高いことを確認できます。
最後に
薬剤師としては、やはり心配に思う親御さんも多いと思うので、データ不十分であることから疑義照会で他の抗ヒスタミン薬を医師に提案するか、処方継続の場合はTmaxである服用1時間後を避け、なるべく時間をあけて直乳もしくは搾乳するように説明すると良いのかもしれません。
いずれにしても服用と授乳(搾乳)のタイミングを調整すれば、理論上の母乳移行量は大きく変わり、より安全な投与計画を提案することが可能となります。
cf. 国立成育医療研究センター
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