【授乳中にフェキソフェナジン、デスロラタジン、オロパタジン】服用して大丈夫?!母乳移行量を計算!

医薬品

今回は授乳中の医薬品の服用“第2弾“ということで臨床現場でよく使われる抗ヒスタミン薬を取り挙げます。アレグラ®︎(フェキソフェナジン)デザレックス®︎(デスロラタジン)アレロック®︎(オロパタジン)について、それぞれの母乳移行量を計算し授乳中の服用について確認してみようと思います。

今回は、アレグラ®︎以外は乳児の用量が設定されていない医薬品になるため、相対的乳児薬物摂取量(RID)(%)=乳児薬物摂取量/母体薬物摂取量も利用しながら考えてみます。

ここでRID(%)とは、式の通り、母体が摂取した薬物のうちどれくらいを乳児が摂取(母乳を介して)することになるかを表したもので、単位は【mg/kg/日】です。また、RID(%)<10%なら安全と言われています。

そして今回も生後8ヶ月の乳児を例に挙げて計算していきます。(なぜ生後8ヶ月を例にするかというと、僕が初めに相談を受けた授乳中の患者さんのお子様が生後8ヶ月で、母乳継続を希望していた方だったというだけです笑)

では、早速それぞれの添付文書で授乳に対しての記載を見ると、、、

アレグラ®︎

フェキソフェナジン(アレグラ®︎)授乳中の添付文書
アレグラ®︎添付文書

デザレックス®︎

デスロラタジン(デザレックス®︎)授乳中の添付文書
デザレックス®︎添付文書

アレロック®︎

オロパタジン(アレロック®︎)授乳中の添付文書
アレロック®︎添付文書

となっています。アレロック®︎(オロパタジン)の記載内容は一味違うような印象ですが、『検討をした上での使用ならお任せします』といった意味に感じますね😅

とりあえず、やはり全体的に授乳中は避けて欲しいといった意味に読み取れます。

では、ザイザル®︎の時と同じように血漿中濃度とM/P比を利用して、実際の母乳中薬物量を概算で求め、添付文書通り授乳中は避けた方がいいのか確認してみようと思います。

*ザイザル®︎の授乳中の服用については過去記事がありますので参考にしてください💡

アレグラ®︎ ( フェキソフェナジン )の母乳移行量

アレグラ®︎はドライシロップ剤で小児用量が設定されているのでそちらとも比較してみます。

フェキソフェナジン小児用法
アレグラドライシロップ5%添付文書

さて、添付文書によれば6ヶ月≦小児<2歳の用量はフェキソフェナジン塩酸塩として1回15mg、1日2回経口投与となっているため、30mg/日を目安に考えます。

ここで、必要なパラメータをIF(インタビューフォーム)で確認すると、

フェキソフェナジン薬物動態のインタビューフォーム
アレグラ®︎IF

ありがたいことに、アレグラ®︎の場合はすでにヒトでの乳汁中濃度が示されているので、この値を基に計算してみます。

※Cmax以外の濃度で計算したい場合は、AUCのM/P(母乳中濃度/血漿中濃度)比である0.21(平均値)を利用し、M/P比としてAUC比を利用します。Cmax比では血中濃度の一部分しか表されず、全体的な母乳移行量をより正確に反映できない可能性があるためです。そしてそれを参考値に血中濃度×M/P比から、その濃度での母乳移行量(ng/mL)を求めます。

では、今回も生後8ヶ月の乳児を例に計算してみましょう!

生後8ヶ月の授乳量の目安を200〜220mL/回、4〜5回/日とします。

まず1回あたりのフェキソフェナジンの母乳移行量は、表のCmaxを利用して
41(ng/mL)×(200〜220mL)=(8.2〜9.0)×10-3(mg) ・・・①
1日あたりの移行量
①×(4〜5回)=(3.3〜4.5)×10-2(mg) となります。

ここで、6ヶ月以上の小児では30mg/日が用量として定められているので、計算上の母乳移行量は規定の1日用量のたった0.11〜0.15%程度しかないことがわかります。
また、この移行量は母体に『アレグラ®︎1回60mgを1日2回反復投与した時の、常にCmaxで1日4〜5回授乳する』ことに等しく、実際にはさらに小さいということもわかります。

上記だけでも安全と言えそうですが一応RID(%)も確認してみます。
生後8ヶ月の乳児の体重を8kg、母親の体重を55kgとすると、
RID(%)=(3.3〜4.5×10-2/8)/(120/55)×100=0.19〜0.26(%)<10%
であり、1%以下とかなり小さいので、アレグラ®︎(フェキソフェナジン)は授乳中でも安全に使用できると考えられます。

実際に国立成育医療研究センターの情報では、アレグラ®︎(フェキソフェナジン)は「安全に使用できると考えられる薬」として記載があります。

デザレックス®︎ ( デスロラタジン)の母乳移行量

続いてデザレックス®︎の母乳移行量についてです。

まず、国立成育医療研究センターの情報では、アレグラ®︎同様に、デザレックス®︎(デスロラタジン)も「安全に使用できると考えられる薬」に該当しています。

クラリチン®︎(ロラタジン)のIFと添付文書を確認すると、デスロラタジンのAUC(母乳)/AUC(血漿)比は0.8とあるので、これがデザレックス®︎のM/P比に該当しそうです。

デスロラタジンの母乳移行率のインタビューフォーム
クラリチン®︎IF

また、成人男性の反復経口投与の試験でAUCの累積係数が約1.5であることから、反復投与時のパラメータを利用して母乳移行量を概算してみます。

デスロラタジンの薬物動態パラメータ
デザレックス®︎IF

反復投与時の定常状態Cmaxは4.21(ng/mL)なので、この時の母乳移行量(濃度)
Cmax×M/P比=4.21×0.8=3.37 (ng/mL)=3.37×10-6 (mg/mL) ・・・①

生後8ヶ月の乳児の授乳量200〜220mL/回、4〜5回/日から、1回あたりのデザレックス®︎母乳移行量
①×(200〜220)=(6.74〜7.41)×10-4(mg/回)・・・②

1日あたりでは
②×(4〜5)=(2.70〜3.70)×10-3(mg/日)となります。

今度はこの値を用いてRID(%)を計算してみます。

生後8ヶ月の乳児の体重を8kg、母親の体重を55kgとして
RID(%)={(2.7〜3.7)×10-3/8)}/ (5/55) ×100≒0.37〜0.51(%)<10%
となり、1%以下とかなり小さいため、デザレックス®︎(デスロラタジン)は授乳中でも安全に服用できると考えられます。

そしてアレグラ®︎同様に、Cmaxの状態で授乳し続けてもこの値ということになるため、実際にはより安全に服用できるかと思います。

アレロック®︎ ( オロパタジン )の母乳移行量

さて、オロパタジンも国立成育医療研究センターで確認してみましたが、、どうも記載が無いようですね、、。これは授乳中の服用を避けた方が良いのでしょうか?

同様にIFで見てみましょう!

オロパタジンの母乳移行量のインタビューフォーム
アレロック®︎IF

ラットのデータなので、ザイザル®︎の時と同様にヒトでの再現性には議論の余地ありですが、M/P比はAUC比として1.5とわかり、この値を利用します。

オロパタジンの薬物動態のインタビューフォーム
オロパタジン®︎IF

また反復経口投与のデータからCmax≒147(ng/mL)なので、反復投与時のTmaxにおける母乳中濃度は
Cmax × M/P比=147×10-6×1.5=2.21×10-4(mg/mL)・・・①

生後8ヶ月の授乳量を200〜220mL/回、4〜5回/日とし、1回あたりの母乳中薬物量
①×(200〜220)=(4.42〜4.86)×10-2(mg/回)・・・②

1日あたり
②×(4〜5)=0.177〜0.243(mg/日)となります。

例によって生後8ヶ月の乳児の体重を8kg、母親の体重を55kgとして、
RID(%)={0.177〜0.243)/8}/(10/55)×100=12.2〜16.7(%)と計算できます。

RID<10%で安全に投与できると言われているので、値としては少し高くなってしまいました

データがなく判断が難しい薬剤ではありますが、例えば授乳回数を1日2回に減らして再度計算してみると、
(4.42〜4.86)×10-2×2=(8.84〜9.72)×10-2(mg)で、
RID(%)=6.1〜6.7(%)<10%となり安全圏に入ることがわかります。

1日の授乳回数毎にRID(%)をまとめると、

1回・・・3.0〜3.3%

2回・・・6.1〜6.7%

3回・・・9.1〜10%

4回・・・12〜13%

5回・・・15〜16%

となり、生後8ヶ月で体重8kg、母親の体重55kg、授乳量200〜220mL/回という条件下では、授乳中でも安全に服用するために、計算上は授乳回数を1日3回までにすると良い、と言えます。

もちろんCmaxとラットM/P比を利用した計算結果で参考程度にしかなりませんのでご理解ください。またザイザル®︎(レボセチリジン)の記事でも述べたように、Cmaxを避けた直乳や搾乳をすれば、母乳継続のままアレロック®︎をうまく服用することも可能と考えます。

ただ、オロパタジンの用法は通常1日2回で1日1回に変更するなどの選択肢もアリですが、敢えてそこまでオロパタジンにこだわる理由もないと思うので、それほど気にするなら個人的には他の抗ヒスタミン薬への変更を考えた方が良いと感じます。

まとめ

今回の計算も参考値ですが、全例での安全性を保障するものではありませんので、必ず主治医や薬剤師が患者個々の背景も考慮して、治療の有益性とリスクを評価した上で最適な選択をしていただければと思います。

Cf. 国立成育医療研究センター

授乳中に安全に使用できると考えられる薬 - 薬効順 - | 国立成育医療研究センター
この表は授乳中の薬の使用に関する国内外の様々な最新の医学的研究に基づいて作成しています。 「授乳中安全に使用できると考えられる薬」は、個々の薬についてこれまでの情報をもとに評価を行い、授乳期でも安全に使用できると考えた薬を載せています。ただし、大量に使用するような場合には注意が必要な薬もあります。

追記:LactMed

こちらもアメリカ国立衛生研究所運営のデータベース、通称LactMedでそれぞれの薬剤の忍容性を確認してみました。

フェキソフェナジンのLactMed評価
フェキソフェナジン、LactMedより引用

フェキソフェナジンは鎮静作用がほとんどなく乳汁移行も少ないため、乳児で有害事象を引き起こすとは考えづらく安全に使用できると考えられそうです。

デスロラタジンのLactMed評価
デスロラタジン、LactMedより引用

デスロラタジンも鎮静作用や抗コリン作用がほとんどなく乳児や乳汁分泌への影響はなさそうで、こちらも安全に使用できると考えられそうです。

オロパタジンのLactMed評価
オロパタジン、LactMedより引用

オロパタジンに関しては、、、んー、どうやらこれは目薬についての情報しかないようですね。
オロパタジンの母乳移行量のおおよそは計算した通りですが、情報がない以上、果たして厳密な計算をしてギリギリを攻めるほど固執すべき薬剤かと言われればそうでもない気がするので、やはり個人的には他の抗ヒスタミン薬を使用するのがベターかなと感じます。

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