メトホルミンは歴史が古く今なお現場でよく使用されている薬の一つですが、2021年にメトホルミンに非常に似た構造式の イメグリミン (ツイミーグ®︎) が上市されました。
イメグリミンはメトホルミンにエタン(C2)がくっ付いただけの構造式で、これだけ似ていれば性質もいろいろ似るのではないか、と普通なら思います。
メトホルミンなどの「ビグアナイド」の記事も今後書く予定として、今回はイメグリミンとの違いに絞ってまとめてみます。
化学構造
化学構造式は薬剤の性質の全てを物語ると言っても過言ではないくらい様々な情報を与えてくれます。
最初に示したようにメトホルミンとイメグリミンは非常に似た化学構造式ですが、それぞれもう少し見てみましょう!
メトホルミン
メトホルミンは「ビグアナイド(biguanide)」のカテゴリーに含まれる成分で、その名の通り2つの(bi-)グアニジン(guanidine)がくっ付いた構造をしています。
メトホルミンが塩基性を示すのもこのためです。
イメグリミン
イメグリミンはメトホルミンのイミン(炭素と窒素の2重結合(C=N))部分をエタン(炭素C原子2つ)で繋いで環状構造にしたものです。
イメグリミンも“ビグアナイド“と言えそうな気もしますが、こちらはトリアジン構造が基本骨格となるため「グリミン系」に分類されます。
※トリアジン:複素環の一つで、窒素N原子を3個含む不飽和6員環
メーカーのリーフレットでは、イメグリミンは「テトラヒドロトリアジン系」となっていますが実際は「ジヒドロトリアジン系」ではないかと思います。
化学名も「(6R)-N2,N2,6-trimethyl-3,6-dihydro-1,3,5-triazine-2,4-diamine monohydrochloride」であり、トリアジンの3つの二重結合のうち1つが水素化(ヒドロ化)されたものは「ジヒドロトリアジン」です。
グリミン系というカテゴリーの定義自体がテトラヒドロトリアジンを由来にしているのかもしれませんね。
(紛らわしい、、)
メトホルミン と イメグリミン の物理化学的性質
物理化学的性質も薬剤がどのような体内動態になるかを予測する良い情報で、添付文書だけではわからないことの方が多いためインタビューフォームや審査報告書もとても重要です。
メトホルミンとイメグリミンを比較してみると、共に塩基性であることがわかります。
(イメグリミンのpKa1.7はジヒドロトリアジンの芳香族化(酸化過程)に関連しているかもしれませんが詳細は不明です)
また、メトホルミンの分配係数は資料なしですが化学構造式から当然水溶性でしょう。
水溶性が非常に高いにもかかわらずメトホルミンやイメグリミンのバイオアベイラビリティ(BA, %)が高いのは、トランスポーターで細胞内に輸送される影響が強いのだろうと推測できます。
実際に、メトホルミンは塩基性であり生体内でカチオン(+電荷)となるため、OCT(有機カチオントランスポーター)やMATE(Multidrug And Toxin Extrusion)型トランスポーターなど、有機カチオンを輸送するトランスポーターの代表的な基質となっています。
メトホルミン と イメグリミン の作用機序の比較
作用機序は重なる部分がある上に、生化学的な(ミトコンドリア機能や代謝などの)知識がないと理解も難しいでしょう。
また、作用点を膵β細胞と肝細胞、その他の組織(骨格筋など)で分けて考える必要があるので、ここを間違えるとさらに混乱してしまいます。
ここでは膵β細胞と肝細胞に分けて確認してみます。
膵β細胞
イメグリミンは膵β細胞においてグルコース刺激性インスリン分泌(GSIS)作用が臨床的にも認められているものの、メトホルミンでは確認されていない(不明)ようです。
また、イメグリミンは膵β細胞の保護や機能改善作用もあるとされています。
肝細胞
メトホルミンとイメグリミンの肝細胞におけるほぼ共通の(似ている)作用は
- ミトコンドリア電子伝達系comprexⅠ阻害
- AMPK活性化
- 遺伝子発現
とされていて、濃度や種差、寄与度の違いはあれど、これらの薬理作用はやはり似ているようです。
逆に、肝細胞における作用の違いは
- ミトコンドリア電子伝達系comprexⅠへの競合阻害と非競合阻害
- ミトコンドリア電子伝達系comprexⅠとⅢへの作用
- ミトコンドリア電子伝達系comprexⅠとⅢのアップ/ダウンレギュレーション
であることが示唆されています。
いずれもミトコンドリア電子伝達系への作用の仕方が異なるようで、このような細かい違いになるのも化学構造が非常に似ていることから納得できますね!
文献をもとにまとめると図のようになります。
イメグリミンはこうした作用により肝臓におけるミトコンドリア機能を回復すると考えられているのです。
イメグリミン の副作用
注意が必要な副作用として挙げられるのが「低血糖」「消化器症状」「乳酸アシドーシス」です。
いずれも他の血糖値を下げる薬と併用すれば副作用の増加が認められるものの、イメグリミン単独でも臨床的に大きな問題はないようです。
とはいえ、まだまだデータとして少なく明らかになっていないところも多々あるため慎重でありたいところです。
メトホルミン と イメグリミン の併用
結論から言うと「メトホルミンとイメグリミンの併用は可能」とされています。
併用した際に消化器系の副作用が増えたという報告があり、また、投与開始初期に起こりやすいことから併用開始早期は注意が必要ですが、いずれも軽度〜中程度で臨床的には問題ない場合が多いようです。
メトホルミンとイメグリミンの作用機序が完全にではないにしても重なっていること、そしてバイオアベイラビリティがそれぞれ60.6%と44%であり、残りは消化管吸収されないことから消化器系の副作用が出やすくなるのも納得ですね。
あわせて読みたい記事
参考:
- メトグルコ®︎錠 インタビューフォーム
- ツイミーグ®︎錠 インタビューフォーム
- ツイミーグ®︎錠 審査報告書
- ⑴Hozumi Kaori, et al. Effects of imeglimin on mitochondrial function, AMPK activity, and gene expression in hepatocytes. Scientific Report 2023; 13 : 746.
- ⑵Sophie Hallakou-Bozec, et al. Mechanism of action of Imeglimin: A novel therapeutic agent for type 2 diabetes. Diabetes Obes Metab. 2021 Mar;23(3):664-673.
- ⑶Guillaume Vial, et al. The mechanism by which imeglimin inhibits gluconeogenesis in rat liver cells. Endocrinol Diabetes Metab. 2021 Feb 23;4(2):e00211.