スルホニル尿素 (SU) 薬は血糖値を下げる薬で歴史が古く、今なお現場でよく使用される薬剤です。
作用機序は、膵β細胞のスルホニル尿素受容体(SUR)に結合し、ATP依存性K+チャネルを阻害することでインスリンの分泌を促進し血糖値を下げます。
ここで、グリニド系薬はスルホニル尿素構造を持たないにもかかわらずSURに結合し、結合と解離が早いことから作用発現が早く半減期が短いため、食後高血糖を抑えつつSU薬に比べ低血糖の副作用を起こしにくいという特徴を持ちます。
グリニド系薬はSU薬と同じ受容体に作用するので切っても切れない関係ですが、今回はSU薬であるグリクラジド(グリミクロン®︎)、グリベンクラミド(オイグルコン®︎)、グリメピリド(アマリール®︎)の化学構造を見てみます。
記事の後半では薬剤の物性で重要な酸・塩基、分配係数(脂溶性・水溶性)も確認します。
スルホニル尿素 (SU) 薬の化学構造
スルホニル尿素(SU)薬には文字通りスルホニル尿素構造が含まれていて受容体に作用するのに重要な役割を果たしています。
グリクラジドの重要な構造はスルホニル尿素のみですが、グリベンクラミドやグリメピリドにはベンズアミド類似構造が含まれ、スルホニル尿素受容体(SUR1)への親和性が高められた構造をしています。
スルホニル尿素 (SU) 薬の結合部位
スルホニル尿素(SU)薬の受容体の結合部位は主に2ヶ所で、A Site(トルブタミド結合部位)とB Site(グリベンクラミド結合部位)があり、A Siteにはスルホニル尿素が結合、B Siteにはベンズアミド類似構造が結合します。
グリクラジドはスルホニル尿素構造しか持たないためA Siteのみに結合し、グリベンクラミドとグリメピリドはスルホニル尿素とベンズアミド類似構造も持つためA Site、B Siteの両方に結合します。
※グリベンクラミド開発前のトルブタミドもスルホニル尿素構造しか持たないためA Siteのみに結合します。
グリベンクラミドの化学構造とファーマコフォア
スルホニル尿素 (SU) 薬のファーマコフォアを確認してみましょう!
SUR1のA SiteとB Siteには重なり合う部分があり、グリベンクラミドの中心に位置するベンゼンスルホンアミド構造を収容できるようになっています。
スルホニルのマイナス電荷が受容体アミノ酸Arg残基のプラス電荷と相互作用します。
似たような化学構造式であるグリメピリドの結合様式も同様であると言えるでしょう。
(残念ながらオープンアクセスの文献ではグリメピリドの結合様式を示すものはありませんでした..)
スルホニル尿素 (SU)薬の物性
物理化学的性質も比較してみましょう!
酸・塩基の強さや脂溶性・水溶性なども薬物動態に影響するため、薬剤の性質を考える上では非常に重要な指標です。
酸・塩基
酸性・塩基性も消化管内や生体内(血漿中、細胞内などの)pHで薬剤がどのような挙動を示すかを予測するのに重要です。
pKaは分子形とイオン形が1:1となる時のpHであり、pHが1大きく(小さく)なるごとに分子形(イオン形)の割合がイオン形(分子形)の10倍になります。
(塩基性薬物では逆でpHが大きくなるにつれ分子形が増えます)
グリクラジド | グリベンクラミド | グリメピリド | |
pKa | pKa1=1.8、pKa2=5.8 | 6.8±0.15 | 6.2 |
いずれもpKaが6〜7あたりで塩基性になるほどイオン形が増えて水溶性も増しますが、SU薬はそもそも脂溶性が高く溶解度も非常に低いのが特徴です。
溶解度は薬剤の吸収効率を左右するため薬物動態やバイオアベイラビリティに影響します。
(しかしグリメピリドのバイオアベイラビリティはAUC比で107%(IF)であり、これは溶解度の低さが吸収過程での飽和を防いだり、脂溶性が高いことによる腸肝循環が影響している可能性がありそうです..)
脂溶性については次の分配係数を見てみます。
分配係数(脂溶性・水溶性)
グリベンクラミドはインタビューフォームにも記載がなかったため、グリクラジドとグリメピリドを確認してみます。
グリクラジドの分配係数↓
グリメピリドの分配係数↓
以上のように、どちらも中性付近から低いpH(強い酸性領域)に向かって大きく脂溶性に傾いています。
これは酸性の強い環境ほど分子形、塩基性の強い環境ほどイオン形の割合が増えることを示し、イオン形は水溶性が高くなるものの、特にグリメピリドでは塩基性領域でも分配係数が1を下回らないことから、グリメピリドは脂溶性が高い薬剤であることがわかります。
実際に、SU薬は溶解度が非常に低いことが課題となっていることも多くの文献で示されています。
(その課題の解決方法は「製剤学」の範疇なのでここでは割愛します)
最後に
グリクラジドに比べてグリベンクラミドやグリメピリドでは受容体との結合部位が多く作用も強力で、代謝物も薬効を示すことから遷延的な低血糖の副作用に注意が必要です。
臨床的には、グリベンクラミドは作用が強力であるものの心保護効果を弱める可能性があり、作用がマイルドで心筋への影響がなく膵外作用も期待されるグリメピリドもよく使用されています。
また、グリベンクラミドとグリメピリドの化学構造の違いから考察できるだけの情報をオープンアクセスでは入手できませんでしたが、酸・塩基、分配係数などの物性から薬物動態にどう影響するかを考察してみるのも良いと思います。
あわせて読みたい記事
糖尿病関連薬の化学構造は過去記事にもあるので興味のある方はご覧ください。
また、化学構造式やファーマコフォアについて勉強したいという方におすすめの書籍も紹介します。
参考:
・グリミクロン®︎錠(IF)
・オイグルコン®︎錠(IF)
・アマリール®︎錠(IF)
・大塚 史子 他「病態に合わせた経口血糖降下薬の使い方」昭和医会誌 2010 p.2〜8
・Dian Ding, et al. The Structural Basis for the Binding of Repaglinide to the Pancreatic KATPChannel. Cell Reports 27: 1848-1857, 2019.
・Gregory M Martin et al. Pharmacological rescue of trafficking-impaired ATP-sensitive potassium channels. Front Physiol 4: 386, 2013.
・Fei-Fei Yan, et al. Sulfonylureas Correct Trafficking Defects of Disease-causing ATP-sensitive Potassium Channels by Binding to the Channel Complex. JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY 281: 44, 2006.