【ゾルピデムとエスゾピクロン】非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の違いを化学構造式で比較!

薬の化学構造と特徴

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は文字通りベンゾジアゼピン系ではない睡眠薬で、ゾルピデム、ゾピクロン( エスゾピクロン )などの頭文字を取って“Z“-drugとも呼ばれ、副作用である筋弛緩作用や耐性・依存性を小さくした睡眠薬となっており、即効性の高さと半減期の短さから入眠障害に対してよく用いられます。

今回は、非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬としてよく使用されるものを、化学構造式の観点から比較してみようと思います。

GABA受容体とベンゾジアゼピン結合サイト(GABA-BDZ)

GABAA受容体はイオンチャネル型受容体で、GABAが受容体に結合するとClがチャネルを透過し過分極状態となり、活動電位が発生しにくくなる抑制性神経伝達となっています。

GABA受容体は5量体として存在しており、GABAA受容体は主にαサブユニット×2、βサブユニット×2、γサブユニット×1で構成され、GABA結合サイトはα-β、ベンゾジアゼピン結合サイトはα-γのサブユニットで形成されています。

ここで、αサブユニットにも細かなサブタイプがあり、ベンゾジアゼピン結合サイトを形成しているαサブユニットの約90%がα(1、2、3、5)であると考えられています。それぞれのサブユニットの特徴として、
α1・・鎮静・催眠作用、前向性健忘作用、抗痙攣作用(一部)
α2・・抗不安作用、筋弛緩作用(大部分)
α3、5・・筋弛緩作用(一部)、鎮静作用に対する耐性(α5)
があります。

ベンゾジアゼピン系薬剤は上記のαサブユニットのどのタイプに主な親和性があるかによって、作用の分類が異なっており、催眠作用に寄与しているのはα12の組み合わせと考えられています。(本邦ではω1受容体と表記)

ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロンなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、α1サブユニットへの選択性を高めることにより、筋弛緩作用や依存性・耐性などのリスクを軽減しています。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬( ゾルピデム 、 エスゾピクロン )

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は文字通りベンゾジアゼピン系ではない睡眠薬で、ゾルピデム、ゾピクロンなどの頭文字を取って『“Z“-drug』とも呼ばれ、副作用である筋弛緩作用や耐性・依存性を小さくした睡眠薬となっており、即効性の高さと半減期の短さから入眠障害に対してよく用いられます。

鎮静作用は筋弛緩作用より高用量で発現するため、上記のα12以外にも作用してしまうベンゾジアゼピン系薬剤では、眠気よりも先に筋弛緩作用が出て転倒リスクなどが高くなってしまう問題があります。そのため、睡眠薬としてはより一層α12に選択性の高い薬剤が望まれており、それが今回の記事にある非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(Z-drug)です。

ゾルピデム (マイスリー®︎)、 エスゾピクロン (ルネスタ®︎) の化学構造

ゾルピデムとエスゾピクロンの化学構造式

ゾルピデムのα1サブユニットへの高い選択性は、カルボニル基のO原子による水素結合ではなく、分子サイズと形が大きく寄与しているとされ、α1サブユニットの結合ポケットは他のサブユニットよりも大きく、ゾルピデムはα1サブユニット以外のサブユニットに結合できないことが理由と考えられています。

これが証拠に、ゾルピデムは筋弛緩、抗痙攣、抗不安作用よりも少量で鎮静作用を発現し、選択性の高さがわかります。

実際に、ゾルピデムのα1サブユニットへの親和性は、α2、3サブユニットに比して約15〜20倍近く高いとする報告もあります。

※ゾルピデムの結合選択性に分子の形や大きさが影響しているのは、NSAIDsのセレコキシブ(セレコックス®︎)がCOX-2に選択性を持つのと同じ理由です。セレコキシブは嵩高い分子であり、COX-2より入り口の狭いCOX-1に入り込めないことが、高いCOX-2選択性を可能にしています。

対してエスゾピクロンは、ゾルピデムと似たような構造を持ちながらも多くの水素結合を形成でき、ゾルピデムよりもベンゾジアゼピン結合サイトへの高い親和性を持ちますが、α1以外のサブユニットへの親和性も高いとされています。これらは半減期にも現れていて、

ゾルピデム(マイスリー®︎):T1/2 ≒ 2 (h)
エスゾピクロン(ルネスタ®︎):T1/2 ≒ 5 (h)

であり、エスゾピクロンは中途覚醒にも多少の効果が期待できます。

また、実際に抗不安作用も認められ、抗うつ薬との併用により抗うつ効果を高めるという報告もあります。

エスゾピクロン(ルネスタ®︎)はゾピクロン(アモバン®︎)のラセミ体のうちのS体で、作用が強く副作用と苦味の小さい方を光学分割したものなので、この記事では割愛させていただきました。

ゾルピデム と エスゾピクロン の結合親和性

IFでゾルピデムとエスゾピクロンの「GABAA受容体サブタイプに対する結合親和性」を確認してみると、、

エスゾピクロンのインタビューフォーム
ルネスタ®︎IF

エスゾピクロンの方がα1サブユニットへ親和性が若干高いものの、ゾルピデムとほぼ同等です。

α1サブユニットへの結合親和性から催眠作用を臨床用量で比較すると、ゾルピデム(10mg)>エスゾピクロン(3mg)となり、臨床試験成績との整合性もありそうですね。選択性と入眠効果の高さという点ではゾルピデムが優れているとも言えるでしょう。

また余談ですが、ゾルピデム、エスゾピクロンともに、過量投与の際の拮抗薬は「フルマゼニル」です。これは結局、非ベンゾジアゼピン系であっても結合するサイトはベンゾジアゼピン結合サイトであるためです。

併せて読みたい記事

参考:
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3375401/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2645942/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4921915/
・ルネスタ®︎インタビューフォーム(IF)

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