ボノプラザン( タケキャブ®︎ )は従来のPPIとは異なり、消化管内の酸にも安定で、K+と競合することで直接プロトンポンプを阻害できます。
従来のPPIと構造式的にも何が違うのか、そんなところにも着目して解説します。
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
PPIの作用機序と課題
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃底腺壁細胞に存在するプロトンポンプ(H+, K+–ATPase)を阻害することで、胃酸の分泌を阻害する薬剤です。
従来のPPIは一度消化管で吸収された後、全身の血流に乗って胃のプロトンポンプ付近(酸性領域)に到達した後、酸(H+)による活性化を必要とします。
PPIの作用機序
- 壁細胞“内“側から分泌細管に移行後、プロトンポンプを“外“側から阻害する
- 吸収後、全身循環から胃底線壁細胞に到達すると、分泌細管の酸性領域でH+により活性化される
- 活性体(主にスルフェンアミド体)がプロトンポンプのCys残基と共有結合(ジスルフィド結合)する
- 共有結合による不可逆的阻害のため、プロトンポンプが新たに合成されるまで作用が持続する

しかし、これらが臨床では短所となる場合があります。
PPIの課題
- 吸収前に胃内の酸(H+)と反応すると分解され失活してしまう(効果が得られなくなる)
- 一度吸収され全身循環(血液)に乗った後、分泌細管でH+による活性化を受ける必要性や作用にムラがあるなど、効果発現まで時間がかかる
- 食事の刺激でプロトンポンプが分泌細管膜上に移動するため、夜間の酸分泌など完全には抑えにくい
- 共有結合による不可逆的な阻害機構のため、作用時間は比較的長いが効率良く全てのプロトンポンプに作用できない
- (新たに合成、分泌細管膜上に移行されるプロトンポンプに対応できない、作用のムラがある)
- CYP代謝における遺伝子多型(主にCYP2C19)の影響を受けることがある
こうした弱点を克服したのが後に紹介するボノプラザン(タケキャブ®︎)です。
(ボノプラザンはCYP3A4の代謝を受け、CYP3A4の弱い阻害作用も持ちます)
PPIと酸(H+)の反応機構
PPIとH+の反応機構を確認してみましょう。
プロトンポンプとジスルフィド(–S–S–)結合するまでにこの反応ではPPI1分子あたりH+が3つ必要で、H+との反応によりアンモニウムイオンとなるため水溶性も高まります。
PPIが弱塩基性(どの薬剤もpKaはおよそ8.8)の分子であることも納得ですね。

この反応が胃内で進行してしまうと分解され、陽イオンによる水溶性上昇で吸収も悪くなり、プロトンポンプへ到達できず薬効を発揮できなくなります。そのためPPIは一般的に腸溶性製剤であり粉砕不可(OD錠も腸溶性細粒を含むため粉砕不可)となっています。
そしてプロトンポンプのCys残基のーSH基と共有結合することで、非可逆的な阻害機構が成立します。

