虫よけスプレーに含まれる ディート や イカリジン の作用の仕組みについて知らない方もいるかもしれません。
そこで今回はそんなディートやイカリジンがどのようにして虫を寄せ付けないようにしているのか、化学構造の観点から解説していきます。
虫よけ成分の特徴と製品を選ぶポイントは以下の記事でまとめているので、ぜひ参考にしてください。
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ディート と イカリジン の作用機序
虫(吸血害虫)が寄ってくるのは、人が発するガスや温度、湿度を感知したり、皮膚や汗に含まれるにおい成分に虫の嗅覚受容体(OBP1;odorant binding protein 1)が反応しているためとされています。
ディートやイカリジンはこうした吸血害虫の感知能力を遮断することで虫を近寄らせないようにしているのです。
後ほど説明しますが,イカリジンには2つのキラル中心があり立体異性体によって虫よけ作用の強さが異なることもポイントです。
これは化合物の立体構造も作用に大きな影響を及ぼしている一例で,ファーマコフォアや構造活性相関を考える上で重要なことです。
ディート と イカリジン の化学構造を比較!
さらに専門的な内容で掘り下げるため薬学の基礎となる化学の観点からも見てみましょう!
ディート (DEET:N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド)

脂溶性が比較的高い構造をしていて,溶媒的な性質を含んでいることから,衣類・合成繊維を変質(溶解)させてしまうおそれが注意書きにあるのも納得ですね!
また,分子量が小さく経皮吸収の懸念があり,日焼け止めとの併用で経皮吸収が増すとする報告もあるようです。
蒸気圧が低く揮発性があまりないことも虫よけの効果や経皮吸収に影響していると考えられるでしょう。
誤飲や過量使用によって神経症状(痙攣,意識障害)や消化器症状が出るおそれもありますが,適正使用範囲内ではそこまで心配する必要はなさそうです。
ただ,中枢移行しそうな化学構造をしているので誤飲した際の神経・消化器症状も納得でしょう!
イカリジン (別名:ピカリジン)

イカリジンはディートに比べると極性が高い構造をしており衣類・合成繊維などへの影響が小さいとされていますが,一部の材料では変質させる可能性があるためやはり注意が必要です。
イカリジンは構造式中にエステルを含み,加水分解による代謝経路がディートと異なる点で毒性プロファイルに影響を与えています。
実際に体内への吸収による急性毒性のリスクは低く,適正使用の範囲内であれば心配はないでしょう。
ディート / イカリジン のファーマコフォア

ディートでは芳香環による疎水性相互作用が活性に重要で、多くのアミノ酸残基との相互作用を強化しています。
イカリジンではピペリジン骨格とヒドロキシエチル基により受容体と水素結合を形成。また立体選択性があり、特定の異性体(1R,2S)がOBP1に選択的に結合しています。
イカリジンの光学異性体の違いによる作用は強い順に1R,2S>1R,2R>1S,2R>1S,2Sとなっていて,1Rは1Sの約2倍の活性があります。
全体的にはディートとイカリジンの結合様式が似ているためファーマコフォアも同様と考えることができます。
まとめ
いかがでしょうか?
虫よけ成分も化学構造式の観点から考えてみるといろいろと納得できる部分もあるのではないでしょうか。
実際にどの商品を選んだら良いかについては以下の記事で紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください!
参考:
・Khawja A Usmani, et al. Drug Metab Dispos. 2002 Mar;30(3):289-94. In vitro human metabolism and interactions of repellent N,N-diethyl-m-toluamide
・Larry Goodrer, Steven Schofield. J Travel Med. 2018 May 1;25(suppl_1):S10-S15. Mosquito repellents for the traveller: does picaridin provide longer protection than DEET?
・S Selim, et al. Fundam Appl Toxicol. 1995 Apr;25(1):95-100. Absorption, metabolism, and excretion of N,N-diethyl-m-toluamide following dermal application to human volunteers
・Christina E Drakou, et al. Cell Mol Life Sci. 2017 Jan;74(2):319-338. The crystal structure of the AgamOBP1•Icaridin complex reveals alternative binding modes and stereo-selective repellent recognition
・K E Tsitsanou, et al. Cell Mol Life Sci. 2012 Jan;69(2):283-97. Anopheles gambiae odorant binding protein crystal complex with the synthetic repellent DEET: implications for structure-based design of novel mosquito repellents
・Emma J Murphy, et al. J Biol Chem. 2013 Feb 8;288(6):4475-85. Interactions of Anopheles gambiae odorant-binding proteins with a human-derived repellent: implications for the mode of action of n,n-diethyl-3-methylbenzamide (DEET)