学校薬剤師④前編〜空気(CO2)検査〜換気・CO2濃度と健康

雑記

学校薬剤師 (秋〜冬)

学校薬剤師 業務は5〜6月のプール水の検査が終わってひと段落し、9〜10月に入り空気・照度検査を実施することになりました。

季節的にも寒くなり始め、窓やドアが閉め切られた状態で室内のCO2濃度が上昇しやすく、また、新しい教室等で発生しやすい揮発性有機化合物のホルムアルデヒド、室内の明るさと眩しさ(照度・輝度)も確認していきます。

今回の記事では室内のCO2濃度と換気について解説していきます。
(ホルムアルデヒド、照度検査は今後の記事にて)

マニュアルは下記のリンクをご参照ください。
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学校環境衛生マニュアル

教室内CO2と健康への影響

CO2は空気中に0.04%(400ppm)ほど含まれている気体で、温熱作用のある赤外線を吸収するため温室効果ガスの一つとして環境問題の原因にもなっています。

CO2それ自体の温室効果は小さいものの、大気中の割合が大きいために結果的に温室効果への寄与が高くなります。

余談ですが、気象庁によれば2020年の地球全体のCO2は413.2ppm(前年より2.5ppm↑)と年々増加傾向にあり、日本国内でも観測地点によっては420ppmを超えているようです。

学校環境衛生基準は文科省の定めるところにより、教室内のCO2濃度を1500ppm(0.15)以下に保つよう基準が設けられています。

この基準は健康への直接的な影響をもとに算出されたものではなく、CO2濃度の上昇に伴って他の汚染物質も増加することが考えられ、十分に換気がなされているかの目安として設定されています。

いろいろな研究でCO2濃度は*シックハウス症候群、認知機能、呼吸器症状などと関連性が示唆され、室内環境においても重要なものです。

*シックハウス症候群:建材等から発生する化学物質など、室内空気汚染等による健康影響。居住に由来する様々な健康障害の総称(参考:厚労省HP)。

症状→目のチカチカ、鼻水、のどの乾燥、吐き気、頭痛、湿疹など。
要因→化学物質、ダニ、菌、湿度、温度など。

ここで、室内の比較的低いCO2濃度と児童への影響には以下のような関連性が考えられています。

二酸化炭素濃度と健康影響

数値からすると「基準値の1500ppm以下を満たすから良い」とは言い切れず、外気(屋外)のCO2濃度に近いに越したことはなさそうです。

かと言って換気に偏り過ぎると室内温度や湿度なども大きく変化するため、それらを衛生的かつ快適な環境に維持したまま行う必要があります。

後ほど解説する「換気回数」を考える際に、一部の窓・ドアを全開にし約5分の換気を1時間のうちに2〜3回行うよりも、窓・ドアを少し開けて常時換気している状態の方が室内温度と湿度の変化を最小限に抑えながら効率良く換気できるとされています。

細かいところでは、CO2濃度が1000〜2000ppmの範囲では200ppm増えるごとに子供の咳のリスクが高まり、小学校でのクロスオーバー試験では、CO2濃度を1500ppm→900ppmにしたところ計算能力や読解力が有意に改善したという報告(S. Petersen, et al., Indoor Air, 2016)もあるようです。

二酸化炭素の経時変化と学校薬剤師
学校環境衛生マニュアルp.33(文部科学省)

また、学校環境衛生マニュアル(上画像)から、小学校高学年や中学校で生徒40人、教師1人を想定した教室で換気がほとんど行われなければ、1コマの授業終了時にはCO2濃度が3200〜3500ppmにまで上がり、健康や学習への影響が大きくなる可能性も想像に難くありません。

もちろんCO2に限らず、十分な換気ができていなければ、揮発性有機化合物や窒素酸化物などの化学物質、菌やウイルスによる室内の空気汚染も進み、それがまた相加相乗的に健康を害することに繋がる恐れがあります。

換気量と換気回数

さて、「換気」ですが、この辺りは薬剤師国家試験でもよく狙われ計算問題も出てきます。薬学部の方は復習しておきましょう。
(CO2、COの測定方法が検知管法というのも押さえましょう)

まず、換気には自然換気と機械換気があり、学校においては多くが自然換気になると思いますが、自然換気による換気量の測定には間接測定法が用いられ、CO2の実際の濃度を測定して換気量を求める方法です。

後ほど紹介する風力換気と温度差換気は自然換気ですが、これらから求める換気量はCO2濃度に依存しないで換気量を求めることができる点で、検知管法による測定とは視点が異なります。

まず、換気量(m3/h)は、単位からもわかるように1時間あたりに室内に流入する外気の量(m3)で、発生したCO2を希釈できる空気量とも解釈できます。

換気量(Q)は、Ct−C0=M/Q×106 ・・・①の式で表されます。

Ct−C0:0〜t時間に室内で増加した分のCO2濃度(ppm)
M:室内で発生したCO2量(m3/h)
Q:換気量(m3/h)
106:M/Qを百万分率ppmに換算

言い換えると「換気された空気(Q)と発生したCO2(M)との量の割合(ppm)が、0〜t時間における正味のCO2濃度変化(Ct−C0)(ppm)に等しい」ということになります。

ここで、①式を移行すると、
Q(m3/h)=M×106/(Ct−C0)
となり、換気量(Q)を求める式が得られます。

さらに、室内で発生したCO2量(M)は、在室者数(人)×CO2呼出量(m3/h)で表され、年齢によっておおよその値が標準化されているのでそちらを参考にします。

幼稚園児・小学生(低学年):0.011(m3/h)
小学生(高学年)・中学生:0.016(m3/h)
高校生・大人:0.022(m3/h)

学校環境衛生マニュアルp.28、文部科学省

次に換気回数ですが、こちらはイメージしにくいかもしれません。

文科省の定めるマニュアルでは以下のように記載があります。

換気回数は、換気の効果を表す数値である。

換気回数(回 / 時)は、換気量(m3/ 時)を教室の容積(m3)で除したものであり、単位時間当たりに教室等の容積に対し何倍の空気が入れ換わるのかを示す値である。1時間あたりの窓開けの回数を示すものではない

学校環境衛生マニュアルp.29、文部科学省

換気回数(E)はE=Q÷Vの式で表され、
E:換気回数(回/h)
Q:換気量(m3/h)
V:部屋の体積(m3)
を表します。

では、実際に換気する場合、この換気量・換気回数をどのように考えれば基準値以下のCO2濃度に保てるかとなるわけですが、上記の計算がイメージしにくい理由の一つは、CO2濃度の実測値を基にした計算のために、窓やドアの開口面積、風圧、風速、温度などの情報が視覚化されていないことによると考えます。

そこで、以下に風圧差を利用した風力換気高低差・温度差を利用した温度差換気を紹介します。


風力換気による換気量は、換気量(Q)(m3/h)=αA×v×√(C1−C2)×3.6×103 の関係が成り立ちます。

αA(実効面積):換気に有効な窓やドアの総合開口面積(m2)
v:風速(m/s)
C1−C2:風圧係数の差
3.6×103:v(m/s)→(m/h)に変換

をそれぞれ表し、換気量が窓・ドアの開口面積や風速に比例することがわかります。

もし学校に風速計と風圧計があれば、より正確で有効な換気量と換気回数を得られ、措置の仕方もより細かくアドバイスできるでしょう。

しかし、もし風速0m/sなら上の式からは換気量0となり換気できないことになってしまいますが、実際には風速0m/sでも換気が行えることを示せるのが温度差換気です。

換気量(Q)(m3/h)=αA×√{2gh(ti−t0)/Ti}×3.6×103 の式で表されます。
αA:実効面積(m2)
2g:定数(gは重力加速度(m/s2))
h:開口部の高低差(m)
ti−t0:室内外の気温差(℃)
Ti:室内の絶対温度(K)
3.6×103:重力加速度g(m/s2)→√g(=√m/s)→(√m/h)に変換(つまりs→hに変換)

をそれぞれ示し、式から窓・ドアの高低差と温度差の平方根に比例することがわかります。

必要な換気量・換気回数を維持するには、学校の場合、上階と下階の教室をそれぞれ開放すれば温度差換気が成立することになります。

仮に無風でも効率良く換気するための一つの手段として知っておくと良いかもしれません。

換気量がわかれば、換気回数を求めることができます。

ここまでで求めた換気量Qを①式:Ct−C0=M/Q×106に代入すれば、Ct(t時間後のCO2濃度)を求めることができ、換気の効果を目安として確認することができます。

また、換気回数E=Q÷Vの式に、求めたQを代入し必要な換気回数に達しているかどうかで、その部屋の容積に対してどの程度換気が有効だったかの確認もできます。

学校薬剤師 と 換気の指導

室内環境の重要な指標であるCO2濃度は、換気によって一定以下(学校では1500ppm以下)の濃度に保つよう基準が設けられていますが、実際には基準値以下だからと言って大丈夫とも言えず、外気に近いCO2濃度に越したことはなさそうです。

しかし、室温や湿度なども室内衛生環境の維持に重要です。

室温に関して、室内温度1上昇するごとに喘息の子供の肺機能が有意に改善するとの報告もあります。
(Pierre et al. Journal of Epidemiology & Community Health. 67(11):918-25. 2013)

低室温では循環器・呼吸器系疾患の罹患率、死亡率が上昇するとも言われ、大人の生活空間でも換気と室温の維持を適切に両立して行うことが重要です。

特に低室温に弱い子供などではより重要性が増してきます。

そこで冬季の換気の際には、一時的にも室温が17未満(学校環境衛生基準:1728)にならないよう、定期的に窓・ドアを全開にするのではなく、常時窓を少し開けて連続的に外気を取り入れ、暖房器具と加湿器を利用するのが望ましいです。

また、人のいない部屋の窓を開け、廊下を経由し、少し暖まった新鮮な空気を人のいる部屋に送り込むこと(二段階換気)も室温の維持には有効です(参考:厚生労働省)。

昨今はSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)も問題になっており、相対湿度も40%以上を維持(学校環境衛生基準:30〜80%)することが大切です。

室温20の時、相対湿度70%で新型コロナウイルスの不活化率を有意に上昇させたとする報告もあります。
(Smither et al. Emerging Microbes & Infections. 1514-1417. 2020)

湿度の維持はインフルエンザやCovid-19などの感染症だけでなく、アトピー性皮膚炎や喘息などの増悪にも影響します。

以上、これらのことを考慮しながらの換気となるため、二段階換気や温度差換気などを上手く活用できると良いと思います。

学校では難しいかもしれませんが、必要があれば室内の人数を減らすなどの対策も場合によって手段の一つになるかもしれません。

薬学部で習うのはCO2濃度の実測値から換気の効果を確認する(計算)方法なので、なかなか概念として理解しづらいところですが、風力・温度差換気も組み合わせると、どこをどうしたら効果的な換気ができるか、という視点が加わり、わかりやすくなるような気がします。

学校薬剤師として、児童がなるべく快適な環境で過ごせるよう、換気の仕方もいろいろ工夫して提案していけたらいいなと思ってます。

併せて読みたい記事

参考:
・A. Persily et al. indoor Air. 2017 Sep; 27(5):868-879. PMID: 28321932
・Kenichi Azuma et al. Environ Int. 2018 Dec; 121(Pt1): 51-56. PMID: 30172928
・冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について 2020.11.27 厚生労働省

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