鉄剤 は医薬品やサプリメント、食事などで補うことができますが、実際にどのように使い分けたら良いかお悩みの方もいるかと思います。
今回は“鉄“の摂取量や基準などの基本知識と、市販薬とサプリメントでの使い分けを解説します。
鉄欠乏症と鉄過剰症
鉄は、赤血球を構成しているヘモグロビンに必須のミネラルで、代謝酵素の活性中心としても酸素の結合に重要な働きをしています。妊娠中の方や経血量の多い方などは鉄が不足しがちで、フェリチンと呼ばれる体内の貯蔵鉄が枯渇すると「鉄欠乏」という状態になります。鉄が不足すると動悸や疲労、脱力、認知機能低下などの症状を引き起こします。
まず、鉄欠乏の検査値による診断基準ですが、日本鉄バイオサイエンス学会の表を見ると、貧血のない鉄欠乏はヘモグロビン値は正常でありながら貯蔵鉄を表す血清フェリチン値が低い、ということがわかります。
鉄の過剰状態では便秘、悪心、嘔気などが起こることもあり、重度の場合は臓器障害や意識障害を伴うことがあります。
それ以外にも海外の研究では、鉄の過剰摂取が心血管疾患や肝臓がんのリスク上昇、過剰のヘム鉄で2型糖尿病発症リスク上昇といった報告もあるようです。
鉄剤 と 鉄の摂取量
厚生労働省の鉄の食事摂取基準を参照すると、日本人での推奨量は、成長期あたりでの必要量のピークに合わせて増加し、その後減少して落ち着いています。女性も、月経ありの場合はそれだけ必要量と推奨量が増えているのも確認できます。
↓下のリンクもご参照ください↓
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 (厚生労働省HP)
ここでの鉄の必要量と推奨量は、厚生労働省の資料によれば、生活上での鉄損失(消耗)まで考慮し、それを補うのに必要な量まで計算に組み込まれているため、この表における推奨量を目安に摂取するよう心掛ければ良いということになります。
ただ、必要量や推奨量の算出には、鉄の吸収率が15%とした条件も計算式に加えられているため、医薬品やサプリメントの種類によって、さらに食事の影響や消化管機能、身体的な鉄需要量によってもバイオアベイラビリティ(生体利用率)が異なることが考えられます。例えば非ヘム鉄よりもヘム鉄の方が食事の影響を受けにくく吸収率も良いため、同じ鉄含有量でもヘム鉄の方が利用効率が若干高く安定しているということも考慮しておくと良いでしょう。
次に注目したいのは『耐容上限量』で、年齢によりますが、男性では50mg/日、女性では40mg/日となっています。
*耐容上限量・・過剰摂取による健康障害のリスクがないとされる摂取量の上限
ここで、医薬品における鉄含有量を確認してみると、どれも耐容上限量以上で、小児や女性の場合はそれを超えているので、鉄欠乏症以外で摂取するには健康障害のリスクが高くなるとも言えるでしょう。
原則的に、鉄欠乏性貧血の場合は「医薬品の鉄剤」による治療が効果的です。当然ですが、貯蔵鉄どころかヘモグロビンにおける鉄自体が少なくなっているので、確実な治療効果を有するだけの用量が必要となります。ただし、用量依存的に副作用も発現しやすくなるため、血清フェリチン値などを考慮しながら、必要に応じて減量するなどの対応も必要となります。
鉄剤 (医薬品)、サプリメント、食事での鉄摂取
①医薬品
医師の診断のもと処方される医療用医薬品の他、一部OTC医薬品(市販薬)も存在します。処方される鉄剤には胃腸障害を減らす狙いのある徐放性製剤(フェロ・グラデュメット®︎等)や、非ヘム鉄でありながらビタミンC等による還元がなくても吸収効率の安定した製剤(フェロミア®︎)などがあります。小児では、一度の過量摂取による鉄毒性を軽減するため、1日数回に分けて使用する小児用医薬品(インクレミン®︎シロップ)もあります。OTC医薬品の鉄剤もインクレミン®︎と同じ成分が使われているものがあります。
②鉄含有サプリメント
大きく非ヘム鉄とヘム鉄に分けられます。非ヘム鉄は食事の影響をそのまま受けやすく、ビタミンCとの併用で吸収率が上昇し、お茶やコーヒーなどに含まれるタンニンによって吸収率が低下します。ヘム鉄は、胃腸障害のリスクが小さい、飲食の影響を受けにくい、吸収率が高いなどの特長を持ちます。
③食事
食事の内容そのものの影響が特に大きく、上述した非ヘム鉄とヘム鉄の特徴以外に、食材ごとに含まれる鉄の含有量も意識しなければなりません。(僕には気が遠くなるほど難しいです笑)
鉄剤 を使い分けよう!
鉄剤と鉄含有サプリメントの共通点として、両者ともに、基本的には成分表示量をもとに鉄摂取量を判断すれば良いというところにあります。クエン酸第一鉄や硫酸第一鉄など、化合物中の鉄(Fe)が占める質量(%)がそれぞれ異なりますが、医薬品添付文書や商品パッケージの成分表示には、きちんと鉄としての質量(mg)が記載されている場合が多く、それを基に自分がどれだけ鉄を摂取すれば良いか、鉄の推奨量なども参考にして考えれば大丈夫です。この時、先述した鉄の吸収に影響を与えるような要因も考慮に入れておく必要があります。
また、鉄含有サプリメントが適している方は以下のような場合です。
- ヘモグロビン値が正常で貯蔵鉄を補いたい
- ヘモグロビン値も血清フェリチン値も正常だが鉄分を摂っておきたい
- 現状問題ないが食事で摂りにくい鉄分を補いたい
- 現状問題ないが将来的に(妊娠や月経を契機に)鉄欠乏に陥る可能性があるため補いたい
①、②は血液検査が前提なので医師と相談のもと決めるのが良いでしょうし、③、④などは特にサプリメント向きで、健康食品のもともとの意義から考えても、健康の保持・増進に寄与しています。
問題は、市販の医薬品やサプリメントで貧血の症状が改善しない場合、鉄欠乏性以外の貧血の可能性や、全く別の原因疾患が隠れている可能性もあるため、早めに受診して原因を確かめるようにしましょう。
まとめると、鉄欠乏性貧血の根本的な治療には医薬品が適しており、受診できない時の埋め合わせにはOTC医薬品の鉄剤も選択肢に。現状そこまで問題ないが、貧血になりやすい方、健康志向の高い方にはサプリメント。その際は商品パッケージに記載された鉄含量を確認して、推奨量に近い鉄を含む商品を選ぶ、といった具合にすると良いでしょう。
追記.医薬品と健康食品の使い分け
そもそも健康食品はどのように考えて使用したら良いのか、大局的な見方としてまとめているので別記事(【健康食品・サプリメントと医薬品は違う?!】薬剤師が分類や違い、使い方をわかりやすく解説!)もご参照ください。
参考:
・Otto MCO, Alonso A, Lee DH, et al. Dietary intakes of zinc and heme iron from red meat, but not from other sources, are associated with greater risk of metabolic syn- drome and cardiovascular disease. J Nutr 2012; 142: 526─33.
・Bao W, Rong Y, Rong S, et al. Dietary iron intake, body iron stores, and the risk of type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis. BMC Medicine 2012; 10: 119.
・Ko C, Siddaiah N, Berger J, et al. Prevalence of hepatic iron overload and associa- tion with hepatocellular cancer in end-stage liver disease: results from the National Hemochromatosis Transplant Registry. Liver Int 2007; 27: 1394─401.