DPP-4阻害薬の化学構造と特徴〜構造式から薬剤を比較する〜

薬の構造と特徴

はじめに

今回は、DPP–4阻害薬の化学構造と特徴です。

DPPー4阻害薬は化学構造と結合様式から3つのクラスに分けられ、近年は薬剤師国家試験にも化学構造やファーマコフォアの問題も出題されているので、薬学生の方もチェックしておきましょう!

DPP(ジペプチジルペプチダーゼ)とインクレチン

「DPP」は”ジペプチジルペプチダーゼ”の略で、文字通りアミノ酸2個分(ジペプチド)でタンパク質を分解する働きを持ち、インスリン分泌作用のあるインクレチン(GLP-1、GIP)を不活性化します。

DPP-4は腸・肝・腎、血管内皮などに多く発現しており、DPP-4阻害薬はインクレチンの分解を抑制し、インスリン分泌能を高い状態に保ち血糖を下げることができます。本来インクレチンは半減期がせいぜい1〜2分という短さで消失していきます。

また、DPPにはサブタイプとしてDPP-8やDPP-9などがあり、解明はされていないものの、これらを阻害してしまうと毒性に関与するとされ、DPP-4への選択性も重要となっているようです。

第106回薬剤師国家試験 問210–211

薬剤師国家試験でもDPP–4阻害薬のファーマコフォアに関する問題が出ています。

ファーマコフォアの知識がなくても解ける問題ですが、薬理作用の本質が相互作用であることを学ぶ意味で良問だと思います。

第106回薬剤師国家試験 厚生労働省HP

正答. 問210→2、問211→4

問211に関して少し解法のポイントを加えると、

  1. 問題文最後に「グアニジノ基は水素結合相互作用におけるプロトン供与体として働く」とあり、水素結合可能な原子・置換基を持つと予想
  2. Glu残基のカルボキシ基は塩基性アミンと静電相互作用(イオン結合)すると予想
  3. Phe残基はファンデルワールス相互作用(π–π相互作用)すると予想

これらを全て満たす4の化学構造式(オマリグリプチン)を選択することになります。

※本記事では水素結合も静電相互作用として表記しています。

DPP-4阻害薬とクラス

DPP-4阻害薬は、その化学構造やDPP-4との結合様式などから、主に3クラスに分けることができます。

DPP-4中の結合部位のうち「S2拡張サイト」や「S1’、S2’サイト」と呼ばれるサイトでは、通常のS1、S2サイトよりも、より強力にDPP-4を阻害できる可能性もあるようです。

DPP-4阻害薬の全てに共通するのは、アミノ基がDPP-4のGlu205、Glu206との静電的相互作用(クーロン力)を引き起こし、これがDPP-4を阻害するために必須の構造となっていることです。

クラスⅠ

クラスⅠは非常に構造がよく似た2剤で、阻害活性はサキサグリプチン(オングリザ®︎)がビルダグリプチン(エクア®︎)より強く、立体構造や嵩高さの微妙な違いによるものなのかもしれませんが、非常に興味深いですね。(半減期もサキサグリプチンの方が長い)

大きな特徴は、シアノ基(–C≡N)がDPP–4と可逆的な共有結合を形成アミンとシアノ基の自己縮合を防ぐために嵩高いアダマンチル基が導入されていることです。

ビルダグリプチン(エクア®︎)

サキサグリプチン(オングリザ®︎)

クラスⅡ

クラスⅡで特徴的なのはアログリプチン(ネシーナ®︎)とトレラグリプチン(ザファテック®︎)です。

見ての通り、トレラグリプチンはアログリプチンにたった1個のF原子が導入された化学構造になっています。

たったこれだけの違いで薬剤プロファイルが大幅に変化するのは、さすが偉大なF原子です!

アログリプチン(ネシーナ®︎)

トレラグリプチン(ザファテック®︎)

リナグリプチン(トラゼンタ®︎)

クラスⅢ

クラスⅢでは、構造式の端にある芳香環含む2個の環構造が「S2拡張サイト」に結合し、DPP-4との親和性が高められています。

アナグリプチンの分子中央にも第三級炭素があり、クラスⅠのアダマンチル基と同様の役割(自己縮合の防止)を持つと考えられているようです。

他に、オマリグリプチンではスルホンアミド構造によって代謝安定性が著しく向上しています。

シタグリプチン(グラクティブ®︎、ジャヌビア®︎)

テネリグリプチン(テネリア®︎)

アナグリプチン(スイニー®︎)

オマリグリプチン(マリゼブ®︎)

まとめ

例によって強さを“大まかに”比較してみます。

阻害活性は、

シタグリプチン<アログリプチン<アナグリプチン≒リナグリプチン≒ビルダグリプチン<テネリグリプチン<オマリグリプチン≦トレラグリプチン<サキサグリプチン

通常用量に換算すると、

リナグリプチン(5)<シタグリプチン(50)≦アログリプチン(25)<テネリグリプチン(20)≦オマリグリプチン(25)≦ビルダグリプチン(50)≒サキサグリプチン(5)<トレラグリプチン(100)

と、だいたいこのような順になりました。
直接比較のデータは無さそうで、用法も考慮していないので参考程度です。

DPP-4阻害薬は効果自体がそれほど強力ではないものの、HbA1cを下げつつ食後高血糖も同時に防ぎたい場合に有用です。DPP-4阻害薬には多くの種類がありますが、効き目が得られない場合には、結合様式の異なるクラスに替えることでHbA1cを下げることができる可能性がある(※)という報告もあります。

効果不十分で同種同効薬に切り替える場合、無闇な切り替えをするくらいならクラススイッチを検討した方が良いかもしれません。
患者さんのアドヒアランスや生理的条件も考慮しながら選択できればと思います。

あわせて読みたい記事

参考:
・Joel P Berger et al. A comparative study of the binding properties, dipeptidyl peptidase-4 (DPP-4) inhibitory activity and glucose-lowering efficacy of the DPP-4 inhibitors alogliptin, linagliptin, saxagliptin, sitagliptin and vildagliptin in mice. Endocrinol Diabetes Metab. 2017.
・Charles E Grimshaw et al. Trelagliptin (SYR-472, Zafatek), Novel Once-Weekly Treatment for Type 2 Diabetes, Inhibits Dipeptidyl Peptidase-4 (DPP-4) via a Non-Covalent Mechanism. PLoS One. 2016.
・Mika Nabeno et al. A comparative study of the binding modes of recently launched dipeptidyl peptidase IV inhibitors in the active site. Biochemical and Biophysical Research Communications. 434, 2, 3 May 2013, 191-196
・Yukihisa S Watanabe et al. Anagliptin, a potent dipeptidyl peptidase IV inhibitor: its single-crystal structure and enzyme interactions. J Enzyme Inhib Med Chem. 06 Jul 2015
・Katsuhiko Mizuno et al. Identification of a novel metabolite of vildagliptin in humans: Cysteine targets the nitrile moiety to form a thiazoline ring. Biochem Pharmacol. 2018 Oct.
・William J Metzler et al. Involvement of DPP-IV catalytic residues in enzyme-saxagliptin complex formation. Protein Sci. 2008 Feb.
・Tesfaye Biftu et al. Omarigliptin (MK-3102): A Novel Long-Acting DPP-4 Inhibitor for Once-Weekly Treatment of Type 2 Diabetes. J. Med. Chem. 2014, 57, 8, 3205–3212. March 24, 2014
(※)Yuta Suzuki et al. Clinical effectiveness of switching between DPP-4 inhibitors in patients with type 2 diabetes mellitus. Int J Clin Pharmacol Ther. 2019 Sep.
・DPP-4阻害薬 各種インタビューフォーム(IF)

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